「ジャイアンツカップ」。野球好きならどこかで小耳に挟んだことのある大会名だろう。
1994年にはじまったジャイアンツカップは、今では全日本中学野球選手権大会の名を冠し、中学硬式野球の頂点を決める大会になっている。
中学硬式野球はリトルシニア、ボーイズ、ポニー、ヤング、フレッシュなど、組織が分かれており、それまでは同じ大会で相見えることはなかった。しかし、ジャイアンツカップの誕生が交流大会の皮切りとなり、今では多くの球団が小学生・中学生を対象とした交流大会を開催している。
皮切りという点では近年のプロアマ交流戦解禁もそうだった。
2011年、大学単独チームとNPB球団の試合が解禁されると、巨人は宮崎で2軍と中央大のオープン戦を行い、プロアマ交流拡大の舵を切った。開催したのは解禁日の3月1日。歴史を動かそうとする強い意志が伝わってくる一戦だった。
巨人が首を横に振れば……という立場にありながら、野球界の発展となるとその姿勢は積極的。野球界全体を念頭に置いたムーブメントを起こす力は随一だ。
また巨人は野球スクール事業「ジャイアンツアカデミー」にも力を入れている。独自のジャイアンツメソッドをつくり、5歳から小学6年生を対象に都内十数か所で常設のスクールを開催。単発ではなく、長期的な野球教室を展開し、巨人OBや巨人コーチ経験者などのスタッフが指導にあたっている。
スクール事業の草分けは楽天で、昨年は「東北楽天リトルシニア」を結成し、中学硬式野球にも参入したが、楽天・相田健太郎スクール部長は「ジャイアンツさんのこれまでの球界に対する取り組みに触発されました」と『中学野球太郎vol.7』でその影響を語っていた。
長年、議論されながらも置き去りにされてきたプロ球団のユースチーム展開。テレビのなかの夢より、目の前の実体験という時代。野球人口の減少が叫ばれる待ったなしの状況で、野球人口の拡大、選手の育成に対して巨人が打つ次の一手が楽しみだ。
さまざまな制約があるなかでも巨人は動き出したら早い。野球界への機動力は楽天をはじめ、多くの球団に勇気を与えている。
今年6月に巨人3軍は台湾に遠征し、U23台湾代表や文化大などと対戦した。今度は9月半ばからU23台湾代表が来日し、巨人、DeNA、楽天、日本ハムのそれぞれ2軍、3軍と交流戦を行っている。
是非のあった3軍設置。筆者も批判的な立場だったが、育成強化だけではなく、1年目から国際交流の役割も果たしたのだ。設立のビジョンは野球界全体を考えていたのかも知れない。さっそく手の平を返したい気持ちだ。
アンチ巨人としては目の前の敵、読売ジャイアンツは憎い。それでもこうした野球界への貢献には頭が下がるばかりだ。プロ野球界だけでなく、野球界全体の舵取り役。船長・ジャイアンツの活躍に今後も期待したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)