この改革のいちばんの目的は試合時間の短縮だ。とはいえ、1試合のなかでそう何度も起こるプレーではないだけに、申告敬遠により劇的に試合時間が短縮されることはない。むしろ、失われるものに対して嘆く声が多く聞かれる。その代表的なものが「敬遠にまつわるドラマがなくなる」ということ。
確かに、クロマティ(当時巨人)や新庄剛志(当時阪神)が敬遠球を叩いて記録したサヨナラヒットは、球史に残る名場面ではある。ただ、打ったほうの洞察力や勇気は賞賛に値するが、どちらかといえばあれは守備側の不用意なプレー。筆者の考えだが、投手の敬遠暴投も同様で、不用意な敬遠がなくなることは悪いことではないようにも思える。
この新らたな敬遠ルールの導入を喜んでいる選手もいるだろう。ゆるいボールを投げるのが苦手な投手だ。一塁寄りの投ゴロのとき、至近距離の一塁手へ危なっかしい送球をする投手は、そういったタイプである可能性が高い。そんな投手は、投げなくても敬遠できる新ルールは歓迎のはず。敬遠投球でリズムを崩すこともなくなる。
なお、すでに1年前からこのシステムを導入しているメジャーリーグでは、昨シーズンに発生した970回の敬遠はすべて申告制で、捕手が立ち上がる従来型を採用するチームはまったくなかったという。
今シーズンからは日本でも、緊迫した場面で監督が登場して敬遠を指示するシーンが日常的な光景になっていきそうだ。
文=藤山剣(ふじやま・けん)