内野の要となるショートの世代交代は難しい。
特に鳥谷はキャプテンとしてチームを牽引する役目を担っていた。ショートから鳥谷を外すことは、チームを根底からひっくり返すことに他ならない。もちろん、それもまた「超変革」である。しかし、7月の段階でこれといった鳥谷に代わる選手は見当たらなかったことも、鳥谷外しの決断を鈍らせる原因になっていた。
シーズン終盤、北條史也がショートのスタメンであり続けたことは、チームにとって、いや、金本監督にとっては救世主が現れたに等しい。
北條は、打つ方でも守る方でも、夏以降メキメキとその潜在能力を発揮。結果的に大先輩の鳥谷をサードへと追いやった。
元はといえば、鳥谷の不振から始まったこととはいえ、北條自身がセカンドやサードを経て着実にチャンスを生かし、しっかりショートのポジションをつかみ取ったことに大きな意味があるのだ。
ただ、超変革はまだ始まったばかりだ。
北條は今シーズン、「事実上のルーキーイヤー」として結果を残せたとはいえ、安泰ではない。
守備力、走力では北條よりも上といわれる、3年後輩の植田海が追い上げてきているからだ。
植田は第1回WBSC U-23ワールドカップの日本代表に選出。2番ショートで活躍し優勝メンバーとなった。走っては6個の盗塁を決め、盗塁王も獲得した。
植田といえば掛布雅之2軍監督が、シーズン中から金本監督に推薦してきた選手。今季、スイッチヒッターに挑戦したのも、左打席から足を生かした攻撃を仕掛けるためである。
まだ左打席でのバッティングはプロの域には達していないものの、「守備」「走塁」だけを見れば、現段階で1軍レベルに達している。その潜在能力は、北條のショートのポジションを脅かすものだ。
北條にとって脅威なのは、植田だけではない。
ドラフトで1位指名された大山悠輔は大学日本代表の4番を担ったスラッガー。大学でのポジションはサードとはいえ、「もっとも難しいポジションからチャレンジさせる」のがチーム方針であれば、春季キャンプでは北條のライバルの1人になるのは間違いない。
また、今シーズン不振を極めた鳥谷もこのまま黙ってはいないはず。これまでの実績と経験、そして誰よりも練習に励む鳥谷であれば、来シーズン、再びショートのポジション争いに参戦してもおかしくない。
これらショートのポジション争いは、セカンドやサードの競争に当然波及していく。各ポジションでベテランと若手が高いレベルで競ってこそ、チーム力は上がる。
鳥谷の想定外の不振から生まれたチーム内競争。2016年の開幕前は不動であったはずのショートというポジションから、来シーズンは再び「超変革」が成し遂げられようとしている。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。