北東北大学野球連盟に所属する岩手県の富士大は、2009年に全日本大学野球選手権で準優勝に輝いた実績がある。沖縄の中部商から富士大学に進んだ多和田真三郎が一躍脚光を浴びたのは、彼がまだ1年生だった2012年秋の明治神宮大会だ。
秋の大学日本一を決める神宮大会2回戦の国際武道大戦で先発した多和田は、大会史上4人目、1年生では史上2人目となるノーヒットノーランを達成。3年後のドラフト候補とも言われ、大学3年時のリーグ戦ノースアジア大戦では18三振を奪い、リーグ記録を更新するなど順調に成長しているように見えた。しかし、大学最終年となった昨年は右肩に炎症を起こしほとんど投げられないままドラフトを迎えた。
昨年のドラフト前はケガを不安視する声もあったものの、西武が単独で1位指名。今シーズンに入ると、早速、5月14日の日本ハム戦でプロ初登板初先発を果たした。2回途中3安打、3四球、自責点4で敗戦投手となり、2回無死満塁から3者連続押し出し四球を記録するなど、プロの第一歩としては最悪なものだった。その後も、先発をしても5回を投げ切るのが精一杯の投球が続き、6月4日の阪神戦では4回を投げ8安打4失点で2敗目を喫した。
重心を深く沈めたフォームから打者の手元まで低く伸びてくる球質が多和田の特徴だったが、プロ入り後はダイナミックなフォームも、独特な球質も影を潜めた。即戦力の呼び声も高かったが、どこか手探りの状態が続いているようにも見えた。
そんな不安を一掃したのが、プロ5試合目の登板となった6月10日の中日戦だ。8回を投げ3安打8三振、無失点。援護がなくプロ初勝利とはならなかったが、多和田本来のフォーム、球質が戻り中日打線を手玉にとった。
特に序盤は、ストレートで見逃しのストライクをとることが多かった。それは、中日打線は多和田のボールをじっくり見ていくというよりも、ストレートにうまく反応できてないように見えた。低めのボールと判断した球がグイッと伸びてストライクになる場面や、少々甘く入ったストレートでも打者が立ち遅れた場面が多く見られた。プロ初勝利を挙げるのも時間の問題だろう。
今後も課題をあげるとすればスタミナ面か。先日の中日戦、5回まではストライク先行の投球だったが、球数は60球を越えた6回あたりからボール球が多くなった。3ボールになることも増え、6回には2アウトながら一、二塁のピンチを招いた。それでも8回に三振を2つ奪ったのは立派だが、先発の柱となるためには不安要素を少しでも減らしたい。
文=京都純典(みやこ・すみのり)
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂出版)などに寄稿。1軍はもちろん、2軍の成績もチェックし、分析している。