ハンカチ世代をはじめ、代走選手が豊作だった2010年のドラフト。いや、今となっては山田哲人(履正社→ヤクルト)が指名されたドラフトといった方がいいだろうか。そのドラフトで、千賀はソフトバンクから育成4位で指名された。
千賀は2年目に支配下登録を勝ち取り、3年目にはセットアッパーとして活躍。オールスター出場も果たし、山口鉄也(2005年、巨人育成1巡目)のようなシンデレラ・ストーリーを歩むはずだった。
しかし、疲労による右肩痛で2014年のシーズン後半から戦列を離れてしまう。復帰したのは2015年の終盤。ポストシーズンでは中継ぎとして日本一に貢献した。日本シリーズ第3戦では、ドラフト同期の出世頭・山田哲人(ヤクルト)に一発を浴びるものの、翌日は2回をピシャリと抑える負けん気の強さを見せた。
今シーズンの千賀は先発としてチームを支え、7月27日現在で8連勝と結果を残している。だが、工藤公康監督は千賀のことを「まだ信頼していない」と報道陣にコメント。これは、工藤監督流の愛のムチだろう。
2013年にセットアッパーとしてブレイクした千賀は、先発転向を訴えていた。当時、千賀は20歳である。
再びシンデレラ・ストーリーに乗った千賀が、本当のシンデレラとなったときの工藤監督の表情が今から楽しみだ。
昨年の日本シリーズ、山田にホームランを打たれた打席のことだ。初球を投げる前に、千賀は二度首を振っている。
捕手の高谷裕亮は二打席連続ホームランを放っている山田に対し、様子を見るために初球は変化球から入りたかったのではないか。だが、千賀はストレートで勝負したかった。
5球目に内角のストレートをスタンドに運ばれた後、千賀は「うそぉ」という様なつぶやきをマウンド上で見せている。同学年の山田にライバル心を燃やしていたのだろう。
千賀のフォークは高めにきたたと思ったらボールゾーンに落ちている、と打者が表現するほどの魔球だ。このフォークは真下に大きく落ちるため「お化けフォーク」と呼ばれている。
千賀がフォークを投げるとき、ストレートと同じように思い切り腕を振る。その思い切りのいい腕の振りが打者の空振りを誘うのだ。千賀のストレートは150キロ超と速い。そのため打者はスイングの始動を早めており、バットを振った後にボールが消えることになる。
この特集で取り上げた菅野智之(巨人)、若松駿太(中日)、石川雅規(ヤクルト)らと同様に、変化球を生かすのはやはりストレートなのである。
7月27日現在、8勝0敗と先発で結果を残し、ソフトバンクに欠かせない存在となった千賀。クライマックスシリーズで先発の座をつかめるのは通常5人だ。その5人の枠に入るため、後半戦も勝ち星を積み上げていくことに期待したい。
文=勝田 聡(かつた さとし)
松坂世代のひとつ上にあたりサッカーの黄金世代となる1979年生まれ東京育ち。プロ野球、MLB、女子プロ野球、独立リーグと幅広く野球を観戦。 様々な野球を年間約50試合現地観戦し写真を撮影する。プロ野球12球団のファンクラブ全てに入会してみたり、発売されている選手名鑑を全て購入してみたりと幅広く活動中。