「インチキ」…石原に付けられたニックネームの1つだ。なぜ「インチキ」なのか? それは、ファンの期待のはるか上を行く意外性を発揮することに由来する。
運は実力のうちとはいうものの、通算打率.241ながら、6年連続でサヨナラ打を打ち続けた。3、4打席タイミングが全く合っていなかったのに、サヨナラの場面ではヒットが出たり、打球がイレギュラーしたり、球が自然に身体に当たったり……、とどこかインチキ臭い現象が起こるのだ。
そんな石原のインチキを抜粋しよう。
・サヨナラデッドボール
2011年5月14日・巨人戦
9回裏1点ビハインドの広島は、相手投手レビ・ロメロの乱調で同点に追いつき、2死満塁で打者は石原。
その初球。投球は一直線に石原に向かい、身体に直撃。倒れ込みながらも、渾身のガッツポーズを見せる石原。世にも珍しいサヨナラデッドボールの瞬間であった。無安打ながらお立ち台に上がる石原に歓声と笑いが起こった。
・砂つかみ事件
2013年5月7日・DeNA戦
6回表2死一塁の場面で、投手・久本祐一が投じた球がわずかにそれ、ミットからボールがこぼれてしまう。こぼれたボールを見失う石原。それを見たランナーの石川雄洋は進塁を試みようとする。
その時だった。石原は、足元の砂をボールに見立てて掴みとったのだ。ボールを見つけたと勘違いした石川は、進塁を自重するのであった。
相手ベンチからも笑いがあふれる程の疑似プレーは、これぞインチキの最高傑作と呼べる奇跡のプレーと言っても過言ではない。
この他にも、サヨナラ打撃妨害という球史に残る珍プレーを披露してきた石原。14年目の今季は、どんなインチキをみせてくれるのか、大いに期待したい。
このように、コミカルな面も石原の魅力のひとつではある。しかしながら、本来は広島捕手史上最多安打記録保持者であり、定評のあるキャッチングや投手陣の調子を観察することで2009年のWBC優勝を影で支えたメンバーでもあり、広島を代表する名捕手であることに偽りはない。
石原には、12球団トップクラスの守備力といい意味での「インチキ」で、今季も広島の扇の要として活躍してくれることを信じてやまない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)