シーズン開幕が迫り、選手はもちろん、監督やコーチ、裏方含め全員が勝負モードに入っていく。一般社会で生きていると、プロ野球はまるで夢の世界のようだが、その舞台に立っているのは紛れもなく人間である。そんなプロ野球の世界で生きる野球人たちが発した言葉は一般社会でももちろん通用する。今回は仕事でも人生でも生かしたい野球人が発した名言を紹介しよう。
生きていれば、「果たしてこれでいいのかな? 」と思う瞬間が誰にでもあるはずだ。何かに打ち込んでいるとき、ほかのことを考えないほうがいいのか、それとも違うのか。迷いが生じたときに思い出したいのが、今永昇太(DeNA)の言葉だ。
「“自分−野球=0”だったら、何かちょっとダサい。世界観を広げるために、本を読むようになりました」
今永は引退後の人生についてコメントしたわけではないが、そんな行く末にも通じるものがある。
当たり前ではあるがプロ野球選手といえども、一人の人間である。引退した後にも人生は続いていく。監督やコーチとしてユニフォームを着ることができるのはごく一握り。大多数の選手はユニフォームを脱いで、新たな道を進んでいくこととなる。多くの場合は、引退したあとの人生の方が長い。
もし野球「だけ」しかなければ、その後の人生の選択肢が狭まってしまう。現役時代から世界観を広げておけば、広げている分だけ選択肢もきっと増える。こういったことも今永は考えているのではないだろうか。
「人生100年時代」と言われる現代を生きていくにあたって、一つのことだけしかできないと自分自身の幅が広がらない。幅が広がらなければ、考え方も固定されてしまい、成長の妨げになってしまう。
人間として成長するためにも本を読む、もちろん、本でなくてもいいだろう。世界観を広げるために話を聞くという選択肢もある。いずれにせよ、幅は広いほうがいい。そう思わせてくれる言葉である。
結果がすべてなのか、それとも過程が大事なのか、これは多くの場面で投げかけられる問いだろう。答えは、その時々の立場や状況によって「結果」にもなり、「過程」にもなる。この問いに対して答えたわけではないが、落合博満氏(元中日ほか)はプロ野球において、こう断言した。
「プロは一生懸命やるのが仕事じゃない。結果を残すのが仕事」
仕事や勉強においては結果よりも過程が大事という局面もある。また、一生懸命な姿を見せることができればよし、ということもあるだろう。しかし、プロ野球の世界は違う。落合氏は中日監督時代に「結果を出すことが仕事」ということを選手はもちろん、コーチや裏方、マスコミに対しても求めていた。
これは野球の世界でなくとも通じる考えだろう。仕事に対しプロ意識を持って取り組んでいくことは、簡単なようで難しい。どうしても仕事で結果が欲しいとき、自分の甘えを断ち切りたいときに思い出したい言葉である。
人生において大きな決断である転職。今の時代では珍しいことではなくなり、むしろ一つの会社で定年まで勤め上げることのほうが稀となった感もある。とは言うものの、転職をする際に未練や寂しさを覚えることもあるだろう。そんな迷いを断ち切りたいときに思い出したいのが、イチロー(当時オリックス)の言葉だ。
「ダメだったら日本に帰る、という弱さじゃできない」
ポスティング制度を用いて、オリックスからMLBの舞台に飛び込んでいくときに発したコメントだ。規模やスケール感は違えど、気持ちは転職に近いものがある。同業界におけるトップクラスの企業に転職するイメージだろうか。
そんなときに「仮に失敗しても元の会社に戻ればいい」と甘い考えを持っていては、なかなか成功しない。退路を断つことで本気になるのである。
イチローは本気になったことでMLBでも成功した。それを「イチローだから」と考えるのは簡単だ。だが、そうではなく「自分もイチローのように」と思うことができるかどうか。弱さを断ち切ることが成功への一歩目なのかもしれない。
■参考文献
『プロ野球ai 2019年1月号』(株式会社ミライカナイ)
『落合語録』(加古大二著、トランスワールドジャパン株式会社)
『イチロー 魂の言葉 増補改訂版』(石田靖司&MLB研究会著、アールズ出版)
文=勝田聡(かつた・さとし)