しかし5月29日の西武との2軍戦で、4打数4安打7打点と結果を出し、昇格決定。そして、5月31日の交流戦のオープニングのオリックス戦から5番DHでスタメン起用された。
「久しぶりで力んだ」という今季第1打席は空振り三振、2打席目もショートフライに終わったが、6回表2死二塁で回ってきた打席では、1‐1から西勇輝の3球目のストレートを真芯で捉えると、京セラドームのライトスタンドへ一直線。歴代25位、これまでに361本(現役最多)の本塁打を放っていたスラッガーらしい、糸を引くようなライナーでの逆転2ランだった。
これが決勝点となり、巨人が快勝。その立役者としてヒーローインタビューに臨んだ阿部は、決勝ホームランについて
「いいスイングができました。そのあと、ピッチャーが頑張ってくれて、ぼくがこうしてインタビューに呼んでもらえましたからね。うれしいです」
と、投手陣の踏ん張りも称えた。そして、この先について聞かれ、
「ぼくひとりではキツいので、チーム一丸となって頑張っていきたいです」
と締めた。
阿部が帰ってきて、ベンチの雰囲気も変わったのか、翌日は1対0で先発の内海哲也が今季初勝利、翌々日も4対2で先発の大竹寛が今季初勝利。チームとしても、ビジターでは今季初の3タテを記録するなど、交流戦前に泥沼の7連敗を喫し、借金生活に突入していたとは思えないほど元気さを取り戻している。
この先、セ・リーグ球団がホームとなる交流戦、または通常のリーグ内の戦いが再開すれば、体調次第だが、一塁か捕手の守備に就くことになるだろう。そうなれば、グラウンド内で、今以上に鬼軍曹・阿部が愛のあるニラみをきかせることになる。
かつて、サインミスをするなど試合に集中できていなかった当時2年目の澤村拓一に対し、マウンドで「鉄拳制裁」を敢行したように、若手が増えているG戦士たちに闘魂注入できるのは、もはや阿部ぐらいしかないのではないか。
交流戦2カード目の日本ハム戦でも決勝の2号ソロを放つなど、存在感はケタ違い。いるだけでチームが引き締まるのであれば、他球団にとってこれほど脅威なこともない。勝負の夏に向けて、巨人の進撃が始まった。
文=藤山剣(ふじやま・けん)