世代交代の中日が将来の先発ローテーション投手として指名したのは高校球界ナンバー1左腕。名将・門馬敬治監督に「強い選手になれ」と言われてきた大器はアウェーでこそ燃える動じない心を持っている。
前回、「先輩・高橋周平がいる中日へ」
夏に光っていたのも心の強さだ。
渡辺元智監督の最後の夏となる横浜との決勝戦、東北勢初優勝がかかった仙台育英との決勝戦は、東海大相模にとって完全アウェー。そんな状況であっても、動じることなく立ち向かい続けた。
仙台育英戦では、小笠原が何度となく、センターバックスクリーンを見る姿があった。
「スタンドのどこを見渡しても、タオルを回していたので(仙台育英の名物応援)、バックスクリーンを見るようにしていたんです。お客さんが入らないのでどっちにも味方というか。スコアボードを見て、現実を受け止めていました」
6回裏2アウト満塁からタイムリー三塁打が出たときは、甲子園の応援席が仙台育英の応援で揺れていた。それでもズルズルいかないのが小笠原の強さ。ライトフライに仕留め、9回の自らの勝ち越しホームランにつなげていった。
「3年間で一番アウェー感があったのが、育英戦でした。でも、楽しかったです。ホームで持ち上げられるよりも、アウェーのなかで敵を倒したほうが気持ちがいい」
私が感じたのは、どんなときでも表情を変えずに投げていたことだ。味方がエラーをしても、淡々と投げ続ける。これも、自分自身で意識していたことだという。
「顔に見せなければ何とかなるだろうと考えています。弱みを出すと、そこから叩きこまれる。監督さんからも『顔に出る選手は強くない』と言われていました」
門馬監督が常々語っているのが、「うまい選手ではなく、強い選手になれ」。
小笠原の心は最後まで動じず、強くあり続けた。この強さは、プロでも武器になりうるはずだ。
ピッチングコーチとして、小笠原を鍛えてきたのが長谷川将也コーチだ。自身は2006年センバツに出場し、甲子園のマウンドで投げた経験を持っている。
走り込みの本数などトレーニングメニューを考えるのも、主に長谷川コーチとなる。小笠原は、1年冬は足首のねんざで走り込みがまったくできなかったが、2年冬には400メートル×10本の走り込みに加えて、筋肥大を狙った週4日のウエートトレーニングをやりこんだ。スクワットの最高値は200kgまで到達。強靭な下半身から、150キロ台のストレートが生まれている。
太りやすい体質の小笠原だが、2年秋が終わってからは体脂肪率に気をつけるようにもなった。2年時は20パーセント台だったが、3年になってからは17パーセント前後をキープ。大好きな甘いものを食べないように心がけた。
間近で見てきた長谷川コーチには、小笠原の姿はどう映っていたのだろうか。
「あいつは研究熱心なんですよ。いろんなピッチャーに、いろんなことを聞いて、自分に生かそうとしている。練習試合でも、相手のピッチャーに『どうやってスライダー投げているの?』と聞いていたこともありました」
現状に満足せずに、常に上を目指し続けてきた。
3年春からランナーなしの場面でもセットポジションで投げるようになったが、これはDeNAの山?康晃を参考にしたものだ。
「それまではワインドアップで投げていたんですけど、上と下が合わなくなっていたんです。それをセットにすることで、テンポがよくなって、自分にはセットのほうが合っていました」
敗戦からの学びも多い。負けたことを無駄にせず、自分の力に変えてきた。「あの敗戦が自分を大きく変えてくれました」と振り返るのが、3年春の関東大会準決勝での浦和学院戦だ。
先発完投し、0対4の敗戦。試合後には涙を流す姿もあった。高校3年間、完投して負けたのはこの試合が最初で最後だった。
浦和学院戦で学びは2つある。1つはチェンジアップの習得だ。8回に荒木裕也にチェンジアップをうまく拾われ、レフトスタンドに運ばれた。低めのチェンジアップで決して悪いコースではなかったが、小笠原には不満があった。
「腕が振れず、置きにいってしまった。チェンジアップこそ、腕を振らなければいけない」
浦和学院のエース江口奨理が、腕を振ってチェンジアップを投げている姿も印象的だった。このチェンジアップに東海大相模打線は対応できず、完封負けを喫した。
荒木に打たれた一発以来、チェンジアップに対する意識が変わった。小笠原の言葉を借りれば、「真面目に取り組むようになった」。キャッチボールのときからチェンジアップの腕振りを意識して、投げ込んだ。つかんだコツは、中指だけ縫い目にかけて、中指で回転をかけること。ストレートとは違い人差し指の力が加わらないため、必然的にスピードは遅くなる。
もうひとつは、江口が見せた左打者のインコースへのストレートだ。球速は130キロ台前後と決して速くないが、打者の近くに的確に投げ込んでいた。
「関東大会が終わってから、左バッターのインコースを練習しました。江口が投げていたので、俺も投げられるんだぞと。それまではシュート回転して当てるのが怖かったんですけど、気持ちを強く持って投げ切りました」
甲子園後のU-18では「県岐阜商・高橋(純平、ソフトバンク1位)からカーブを教わった」という記事が新聞紙面に載っていた。
本人に確認してみると、「高橋のカーブは外側に抜くイメージ。やってみたんですけど、しっくりいかなかったんです」と苦笑い。モノにはできなかったが、どこに行っても、いいピッチャーから学ぼうとする姿勢は変わっていない。
一流選手が揃うプロ野球の世界では、プロだからこその技術を持った投手がいる。高いレベルを見て学ぶことで、小笠原の感覚はさらに磨かれていくであろう。
心の強さ、学ぶ意欲、吸収力の高さ。速い球を投げるだけが小笠原の魅力ではない。ドラフト1位にふさわしい心を持っている。
(※本稿は2015年11月発売『野球太郎No.017 2015ドラフト総決算&2016大展望号』に掲載された「32選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・大利実氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)