昨年の京大くんこと、田中英佑投手(ロッテ)の取り上げられ方を見てもわかるように、スポーツ新聞は異色の経歴が本当に好きだ。
野球界に久しぶりに現れた本物の文武両道――キャリアの希少性でいえば、甲子園や東京六大学で活躍した選手よりも圧倒的に高いので、大きく報じられたのも当然ではある。
そして、今年の異色の経歴枠の筆頭がロッテに6位氏名された信樂晃史(しがらき・あきふみ)
投手。前職は何と自動車教習所の教官。プロ野球界初のキャリアをもちろんスポーツ新聞が放っておくわけはなかった。
本人もその期待に応えるべく、指名挨拶にきた山森雅文スカウトを運転席に乗せ教習所を一周したあとで「リリーフカーを運転するかもしれない」とパフォーマンスを提案したり「投球にスピード違反はないのでどんどん飛ばしたい」とコメントしたりと、サービス精神を発揮(11月3日スポニチより)。
一見、幸せな関係のように思えたが、11月10日の入団交渉で永野吉成チーフスカウトから「多分、あだ名は『教官』になると思う」と告げられると「あだ名をもらえるのはありがたいです」としながらも「いつかは自分の名前で呼ばれるプレーヤーになりたい」とプライドを覗かせた(11日スポーツ報知)。
そりゃプロ野球選手だものね。大体、あだ名が「なると思う」って何だよ。とにかく前のキャリアに思った以上に引っ張られるのが異色の経歴の難しさである。
さて、そんな信樂の割を完全に食ったのが、オリックスのドラフト8位の角屋龍太投手。
こちらは「ごはんDININGほっこり栄本店」の厨房で包丁を握っていたのだが、残念ながら所属するジェイプロジェクトからは2011年に、オリックスに庄子龍二捕手がプロ入りしているためインパクトはイマイチ。
そのため自ら色紙に抱負として『出汁巻き玉子(をいつか球場でプロデュースできるように)』と記入。さらに背番号の58は「58(ごはん)」が由来とゴロ合わせも披露し、異色の経歴をまずは猛アピール(11月18日スポニチ)。
若手芸人の決まり文句に「名前だけでも覚えて帰ってください」があるけど、それは新入団選手も同じなのかもしれない。ただ、現状は教官と出汁巻き玉子しかインプットされてないけどね。2人の活躍を切に願う。
文=御手洗あつひこ
幸楽(@渡る世間は鬼ばかり)のような中華料理屋でスポーツ新聞を読むことをこよなく愛するダメライター。その経験を生かして野球太郎で年に一度だけ『ドラフト当日の新聞報道徹底検証』の記事を担当する。好きな紙面レイアウトはスポニチ。