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《セイバーメトリクスで読み解く》得失点差マイナスで優勝なら初の出来事!? 阪神の不思議なシーズンを探る

【この記事の読みどころ】
・マイナスの得失点差がリーグ優勝すれば、プロ野球初めての快挙?
・首位だが、大敗の多い阪神の投手陣を分析
・メッセ、藤浪、岩田、能見、呉、福原、安藤の7投手で勝つ

☆得失点差がマイナスで優勝を目指す阪神

 阪神が夏場のセ・リーグをリードした。8月8日に首位に浮上するとその座を守り、わずかにではあるが混セを落ち着かせた。

 しかし9月2日現在、得点402、失点482を記録している阪神は、得失点差でセ・リーグ最大の赤字を抱えてもいた。不思議な首位だった。

 1980年以降、得失点差がマイナス70点台でシーズンを終えた球団はのべ11球団あった。順位は次のようなものだった。

1位 なし
2位 2チーム(2000年・中日、2004年・ヤクルト)
3位 1チーム(1983年・大洋)
4位 3チーム(1981年・ヤクルト、1984年・阪神、2013年・中日)
5位 2チーム(1981年・南海、1997年・阪神)
6位 3チーム(1987年・近鉄、2000年・近鉄、2013年・日本ハム)

 多くはBクラスだが、Aクラスに入った例もある。ただし優勝はない。過去、最少の得失点差で優勝したのは2011年の中日で得失点差+9。マイナスで優勝したケースはこれまでなく、阪神がこのままの得失点差を保って優勝すれば初のケースとなる。

 また、過去の結果の統計からつくりだした数式で、球団が記録した総得点と総失点から見込まれる勝率を推定する「ピタゴラス勝率」では、阪神の推定勝率は.422(50勝69敗)と算出される。実際の勝率.517(61勝57敗1分)との間には.095もの差があり、このまま保ってシーズンを終えれば史上最大の差となる。

☆大敗が目立つ理由

 得失点差では赤字なのに勝敗数では貯金。そんな事態を目にしたとき思い当たるのは、「接戦をよく勝ち」「負けるときは差をつけられて負ける」という戦いぶりではないかと思う。阪神はそのような戦いをしているのだろうか。

 阪神の勝ち試合と負け試合(引き分けは除外)の1試合当たりの平均得点と平均失点を確認すると、グラフのようになっていた。


 勝ち試合は平均4〜5点を獲り、失点は2点程度。ここだけを見ると他球団との間にそこまで大きな差は感じられないが、負け試合の失点が特徴的だ。他球団よりも約1点多く、勝ち試合の失点と比べると、他球団は差が2〜3点のなか、阪神だけ4.3点と負け試合に偏って失点している様子が見られる。

 「負けるときは差をつけられて負ける」ことで得失点差のマイナスが大きくなっているのがわかる。

 失点が負け試合に偏っているというと、阪神の大敗の多さを思い起こす人もいるだろう。今年の阪神は10失点以上を喫しての敗戦が9回ある。巨人とDeNAが4回、ヤクルト、広島、中日が3回だったことを考えるとこれは多い。

(1)4月25日(土) 広島戦 3-11
(2)5月 3日(日) 巨人戦 3-10
(3)5月 9日(土) 広島戦 0-10
(4)6月13日(土) オリックス戦 1-15
(5)6月14日(日) オリックス戦 1-10
(6)7月 2日(木) ヤクルト戦 1-10
(7)7月11日(土) 巨人戦 2-11
(8)8月19日(水) 巨人戦 3-12
(9)8月30日(日) ヤクルト戦 8-11

 この9試合で阪神の失点の合計は100、一方得点は22。得失点差はマイナス78点にもなっている。この9試合を、負け試合の平均失点5.2点程度で戦い、「普通に負ける」ことができていれば、失点は約53点減り、得失点差もマイナス23点程度になっていた計算になる。


 この9試合の先発投手と救援投手の成績を比較したのが上の表になる。先発投手も失点しているが、その後を投げた救援投手がそれ以上のペースで失点している。本塁打を浴びるケースが多かったようだ。

 救援投手が高い頻度で炎上し大敗するケースが相次いだ結果、大量失点した負け試合が多く生まれた様子が見て取れる。

☆主要7投手がイニングの7割を投げ、勝利に貢献!

 このような今年の阪神を救っているのが、呉昇桓、福原忍、安藤優也の3投手だ。派手な炎上が目立つ救援投手陣にあって、このベテラン3投手のみが平均以上の成績を残している。彼ら3人の防御率と、奪三振、与四死球、被本塁打から推定する防御率・FIP(Fielding Independent Pitching)は、どちらもセ・リーグの平均を下回る好値を出している。

 メッセンジャー、藤浪晋太郎、岩田稔、能見篤史の先発4本柱と呉、福原、安藤の成績の合計で同じ数字を出すと、防御率は3.14、FIPは2.75。これはチーム防御率が12球団で1位と2位の巨人や広島に迫る数字である。


 7投手に限った数字といっても、彼らの投球イニングは730で全体の73%にものぼる。阪神は表面上の数字よりも高いクオリティの投手力を発揮できている7割のイニングを、うまく勝利に結びつけていたのかもしれない。

 優勝にむけてひと踏ん張り、というここからの局面は、どの球団も阪神のように少数の精鋭をフル回転してくるだろう。阪神が強みを引き続き維持するには、核となる7投手が、1人も欠けずに、これまで以上の力を発揮する必要がありそうだ。ベテランも多い面子ではあるが、30年ぶりの日本一を成し遂げるには、この7投手がカギを握っている。


■ライタープロフィール
秋山健一郎(あきやま・けんいちろう)/1978年生まれ、東京都出身。編集者。担当書籍に『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社プラスアルファ新書)、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクスリポート1〜3 』(デルタ、水曜社)など。

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