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野球マンガ格言集・球言!『ラストイニング』『ダイヤのA』『新巨人の星』より

 『週刊野球太郎』初期の人気コーナーが6月から復活!

 「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1


《意味》
 味方が得点を取られるパターンはたくさんある。あらゆる可能性を考えた上で、相手チームのことをよく観察すべき。相手の得点パターンが見えれば、それを阻止する道も開かれていく。

《寸評》
 2012年夏の甲子園、済々黌と鳴門の試合で起こった、いわゆる「ルールブックの盲点の1点」も1死一、三塁の場面で発生。打撃妨害や走塁妨害など、様々な得点パターンが確かに50通り以上あるのでぜひ数えてみてほしい。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第2巻より


《解説》
 鳩ヶ谷圭輔監督が率いる彩珠学院は、武州商との練習試合で「1点ゲーム」を敢行。捕手の八潮創太に、毎回1失点をするよう指示する。

 ピンチを作っては最少失点で切り抜ける。「1点ゲーム」の目的は、追加点を防ぐ練習を積むことだった。4回表、武州商の攻撃。1死一、三塁の場面で、鳩ヶ谷は部長の毛呂山豊に質問をする。

「お前さぁ、ワンナウト一、三塁から点が入るパターンっていくつあるか知ってるか?」

 首を振りながら、「いえ……」と返す毛呂山。

「まぁ50通り以上はあるな……」

 相手の得点パターンを読んで、ピンチを切り抜ける方法を学び、自分たちで試合を作れるようになる。毛呂山にも「1点ゲーム」の意味がようやく理解できるようになっていた。

★球言2


《意味》
 速い球を投げるためには、グラブを持つほうの手でいかにカベを作り、体のタメを維持するかが大切。投げるときに意識してグラブをつぶすようにすると、カベを作りやすくなる。

《寸評》
 青道の沢村栄純が試した方法だが、カベを意識する技術としては割と一般的。沢村の場合、意識しすぎて前に出した足が内側に入りすぎていたため、先輩・滝川クリス優のアドバイスにより、慣れるまで前足をやや開き気味のフォームに修正した。

《作品》
『ダイヤのA』(寺嶋裕二/講談社)第4巻より


《解説》
 西東京の名門・青道に入学した1年生の沢村栄純は、一日でも早く1軍へ上がるための努力を続けていた。

 6月の1週目、夏までに2軍を抜け出す最後のチャンスが訪れる。東東京の古豪・黒士館との練習試合。沢村は先発投手としてマウンドへ上がるが、制球に苦しむ。初回から無死満塁のピンチとなるも、頼れる先輩捕手・滝川クリス優の活躍で無失点。自軍の攻撃中に、フォームのチェックを行うことにした。

 片岡鉄心監督に言われ、右手のカベを意識するようになっていた沢村は、投げるときにグラブをつぶすようにしたら「いい感じになった」とクリスに説明。納得したクリスだったが、カベを意識しすぎてコントロールがつきにくくなっている沢村に対し、「右足はホームに一直線になるように踏み出してみろ」と指導した。

★球言3


《意味》
 野球における対話は実技が何より大切。なまじ理論が介入すると混乱をきたしかねない。会話が成立しないぐらいのほうが、ある意味で理想的である。星飛雄馬を指導するために来日した米国人コーチ、サンダーの言葉。

《寸評》
 長嶋茂雄氏が電話口で松井秀喜選手に素振りをさせ、スランプを脱出させた逸話ではないが、一流同士には時として言葉以上の伝達方法が存在する。一方で、一流以外の人間でもコーチから軸やら体重移動やら色々と言われた結果、まったくわからなくなることがよくあるわけで……。言葉ってやっぱり難しい。

《作品》
『新巨人の星』(梶原一騎、川崎のぼる/講談社)文庫版・第1巻より


《解説》
 野球の道を諦めきれず、代打専門の打者として巨人に復帰しようとする星飛雄馬。伴重工業の常務となった親友・伴宙太は、彼のためにアメリカからコーチを招聘する。

 やって来たのは、元ニューヨーク・ヤンキースの打撃コーチ、ビッグ<rル・サンダー。ジョー・ディマジオやミッキー・マントルら、第二次のヤンキース黄金打線を鍛え上げた大リーグ史上屈指の大物だった。

 伴は早速、サンダーを飛雄馬に引き合わせる。するとサンダーは、いきなり飛雄馬の体を直接触り、構えを矯正していく。同行していた通訳を2人のもとへ向かわせる伴。ところが、サンダースの返答は「ノーサンキュー!」。野球における対話は実技のみがコンセンサスであり、ある意味で「会話の不通はコーチする者される者の理想的な形である」と退けられる。


■ライター・プロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。幅広い書籍、雑誌、webなどで活躍。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」(http://bbc-lab.seesaa.net/)好評配信中。

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