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第12回『プレイボール』『ラストイニング』『クロカン』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
マウンドまで多少の距離があっても、落ち着いてよく見れば、投手の呼吸するタイミングがわかる。自分もそのリズムに合わせてから打席に入ると、緊張せずに打つことができる。

《寸評》
目の前の投手に集中するためのテクニック。呼吸を合わせるという作業をこなすことで、余計なことを考えずに済み、自然と間を取ることもできる。作中の谷口タカオ曰く、「大切なこと」は、相手の呼吸が「わからないうちにぜったいバッターボックスにはいらないこと」だという。

《作品》 『プレイボール』(ちばあきお/集英社)第4巻より

《解説》
墨谷二中を卒業した谷口タカオは、墨谷高へ進学。一年生ながら四番サードを務め、チームを牽引していた。
全国高校野球大会の東京都予選。三回戦に進出した墨谷高は、シード校の東都実業と対戦。一回表の守備こそ無難に切り抜けたが、攻撃ではいきなりの連続三振。大舞台に立った緊張からか、相手のエース・中尾のボールをまったく打てる気配がなかった。
このままではいけないと判断した谷口は、ベンチである提案をする。
「よかったら ぼくなりのあがらない方法があるんですが ためしてみませんか」 その方法とは「バッターボックスにはいるまえに ピッチャーの吸ったりはいたりする呼吸とあわせてみる」というものだった。
谷口の教え通り、投手の呼吸を見てから打席に入った三番の山口は、ライト方向へ会心の当たり。両チームを通じて初めてのヒットを放つ。
続く四番の谷口自身も、投手と呼吸を合わせてから打席へ。ここで連続安打が出れば、一気に試合の流れを持って来られる場面だが……。


★球言2


《意味》
追い込まれれば打者も必死に打ちに来るので、痛い目に遭うことがある。防ぐ方法は、どちらが優位に立っているかがわからないようにカウントを作ること。

《寸評》
勝負どころでは、バッテリーだけでなく、打者も迷っている。コースを絞るか、広く待つか。チャンスを拡大するか、一発逆転を狙うか。どちらが有利かわからないカウントであれば、打者はその迷いに縛られたまま、思い切った打撃ができない。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第19巻より


《解説》
夏の埼玉県地区予選。彩珠学院と武蔵体育大附高による準々決勝も、大詰めの九回表。何とか2点のリードを保ったまま、逃げ切りを図りたい彩珠学院だったが、武蔵体育大附高も粘りを見せ、2死ながら一、三塁の好機を作る。
打席には五番・畑中。二球目のストレートを弾き返した打球は、センターオーバーの長打コース。三塁走者に続き、一塁走者も生還かと思われたが、彩珠学院の中継プレーが間一髪で勝り試合終了。10対9という結果で、乱打戦を制した。
試合後、バッテリーを呼び出した彩珠学院の鳩ヶ谷圭輔監督は、捕手の八潮創太に諭す。
「早めにストライクが欲しいと思ったんだろうが… 追い込めば優位に立てると思ったら大間違いだ。追い込まれりゃ、バッターも必死に打って出る」
結果的に歩かせたとしても、まだ満塁だった状況を振り返り、勝負を焦ることの危険性を説くのだった。


★球言3


《意味》
のどかな環境で育った東北地方の球児は、全国の速い反応に遅れてしまいがち。甲子園で勝つためには、普段から体内時計を整え、自分たちのペースで試合を進められるように努力すべし。

《寸評》
年々、地域ごとの実力差が狭まりつつある高校球界だが、土地柄や風土に根ざした気質は簡単には変わらないもの。作中の説明によれば、たとえ野球留学してきた球児でも、「環境とは恐ろしいもので関東 関西の子でも すぐに東北の空気に順応してしまう」のだとか。

《作品》
『クロカン』(三田紀房/日本文芸社)第26巻より


《解説》
5度の甲子園優勝を誇る名将・岡添良治は、岩手県にある京陽盛岡高の監督に就任。そこで痛感したのは、東北球児たちの「体内時計が遅い」ことだった。弱点を克服するため、岡添は「普段から時間を正確に体の中に刻ませる訓練」をチームに課す。
成果は、夏の甲子園で発揮された。西の横綱・豊将学園との準決勝。テンポのいい京陽盛岡高の試合運びに、豊将学園の徳武監督は焦りを覚える。
「こっちがペースを掴めんのは常に京陽盛岡の時間の中で戦っとるからや 今までこんなこと 北国のチームにはなかった」
相手の心中を察するかのように、岡添が胸を張る。
「北のチームが勝てないのは 時間を相手にすべて渡してきたから 勝つためにはこれをまず 自分の手に握ること 甲子園の時間を支配すること」
試合の主導権を握り、準決勝を制した京陽盛岡高。悲願の優勝旗を持ち帰るべく、クロカン(黒木竜次)率いる鷲ノ森高との決勝に挑むのだった。


文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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