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ダルビッシュが認めた男・山岡泰輔(瀬戸内)

 さて、甲子園も終了。戦いを振り返ると前半はホームランが右に左にセンターにと飛び込み、完全に打撃の大会になると思った。2日目が終わった夜、『野球太郎』編集部の菊地氏に僕が関西でたまにやっているラジオに出てもらい、優勝予想をした時も「打撃のいいチーム」という基準で一致。互いに日大三、大阪桐蔭をV候補に挙げたのだった。しかし…。

 中盤からはなぜか一発は激減し、終盤は1点を争う好ゲーム続き。前半戦のあの“飛び”はなんだったのかと思いながら、振り返ると、いわゆる「好投手」が総じて少ない大会ではあった。

 その中でスポーツニッポンが大会後、スカウトにアンケートを取ったという甲子園ベストナインを発表。それによると投手は?橋光成(前橋育英)ではなく瀬戸内の山岡泰輔だった。スカウト目線のため3年生中心で選んだのかとも思ったが、二塁手には常葉学園菊川の?原樹も入っており、そうばかりでもなかったよう。それより何より、確かに山岡は好投手だった。


▲?原樹(常葉学園菊川)


 7月末。広島大会決勝(広島新庄vs瀬戸内)が延長15回で、決着がつかず再試合となり、中1日おいて行われることになった。その前日、広島で別の取材をしていたので1日、戻りの予定を遅らせ、尾道で行われた再試合を観戦した。広島新庄・田口麗斗、瀬戸内・山岡とプロも注目する2人の投げ合いが思わぬ形で見れることになったわけだ。

 結果的には1-0で瀬戸内が勝ったが、さすがに決勝まできての再試合。両投手とも疲れは明らかで、ネット裏席の僕の2段前で見ていたスカウトが構えるスピードガンも130キロ台前半がほとんど(翌日の新聞では山岡のこの日の最速144キロ。しかし、僕は確認できなかった)。

 ただ、生観戦のお陰で山岡も田口も球速や三振の数で語られるようなタイプでないことはよくわかった。どちらからも右左関係なく打者のインコースを攻めきれる精度と、そこが大事だということを理解して組み立てられる頭も感じた。ベースをなんとも広く利用し、非常にレベルの高い投球術を見せていた。それだけに万全の状態ならどれだけの投球を見せるのか…と期待したのが、山岡に関しては甲子園の明徳義塾戦だった。


▲山岡泰輔(瀬戸内)


 惜しくも2-1で敗れたが8回を投げ、6安打9奪三振3四死球で自責点は1。確かにプロのスカウトの目を釘付けにする内容だった。再試合とは違い、初回から140キロ台を軽々超え、手元でくるトレートにスライダーのキレ、そして172センチの身長…。

 僕の中で1人完全に重なったのが元オリックス、ロッテで活躍した川越英隆だった。98年に社会人から入団し、松坂大輔に新人王のタイトルは譲ったものの2ケタ勝利をマーク。以降もローテーション投手として活躍した好投手だ。好調時は150キロ前後を計測のストレートは手元で勢いを失うことなく、むしろ伸び上がってくるイメージで、制球力も高く内角も攻めきった。そこに斜めに切れるスライダー…。山岡のトップモデルに川越が重なった。

 投げるだけではない。川越もそうだったように山岡も牽制やフィールディングが抜群。明徳義塾戦でも普通ならバランスを崩しそうな体勢でもしっかりバントの打球を処理し、素早い牽制も見せた。投げる以外の能力の高さを随所に見せ、このあたりがまたスカウトの目を引いたのだろう。大会前にはヒジを痛めているという話も出ていたが、試合後には「県大会と同じくらいの感じで投げられました」。しっかりと力を見せ甲子園を終えた。

 その山岡に大会終了後、再び大きな注目が集まった。現地8月24日のツイッターでダルビッシュ有(レンジャーズ)が「動画見たけど、これは一番だわ」「プロにすぐ行くべき」と呟いたからだ。

 進路についてはまだ明言していない山岡だが、いいも悪いも、大きな一言をもらったものだ。おそらくこの一言により、マスコミの注目は格段にアップし、それにつられスカウトの評価もさらに上がるだろう。なんといっても「あのダルビッシュがそこまで言うのだから」ということだ。

 おそらく本人や本人の周辺には、体のサイズやヒジの不安もあり、ワンクッション置いてから…という考えも1つあるのだろう。しかし、最近は僕もこのあたりの考えが変わり、故障があっても、治ればすぐに投げさせられる大学より、治療もケアも十分に行えるプロの方が…という思いになってきた。もちろん、本人に万全の状態になればプロで十分やれるという高い資質があっての前提だが。

 もう1つ大きな考えどころは、万が一、プロでうまくいかなかった場合のことだ。その時に高卒なのか大卒なのか、社会人出身なのか…。これにより、球団に職員として残る、残らない、あるいは他で働くにしてもその待遇面に差が出ることが十分あるからだ。そのあたりも含め、山岡がどう考えるか。

 選出された高校ジャパンでは、様々な事情を考慮しながら起用できる西谷浩一監督(大阪桐蔭)が代表監督を務める。無理をして投げることもないはずで、台湾の地で一流どころに混じりながらゆっくり自らの進路を考えるのだろう。

 ダルビッシュの呟きがどう山岡の人生に影響を及ぼすのか…も含め、この男の決断とこれからに注目したい。

プロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)…1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(楽天)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。

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