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第2回「シリーズ男」名鑑(投手編)

 「野球なんでも名鑑」は、これまで活躍してきた全てのプロ野球選手、アマチュア選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくる企画です。
 毎週、各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべく逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしていきます。第2回のテーマは、「シリーズ男」名鑑(投手編)です。

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 ペナントレース終了後、ポストシーズンに大活躍する選手を「ミスター・オクトーバー」と呼ぶことがあります。この、日本で言うところの「シリーズ男」の称号はどちらかといえば打者に与えられることが多い気がしますが、大舞台で印象的な活躍をした投手も多くいます。巨人と日本ハム、と両リーグの優勝チームも、クライマックスシリーズ(CS)出場チームも決まり、まさにこれから「シリーズ男」が活躍する季節になりました。前回の野手編に続き、日本一をかける最終決戦で力を発揮してきた“シリーズ男”と呼びうる投手(80年代以降)を、選んでみました。

工藤公康(西武・ダイエー・巨人)

 日本シリーズに出場すること14回。26試合に登板し、計11度の日本一に輝いた工藤。シリーズMVP(2回)、優秀選手(2回)に選ばれたほか、通算最多の102奪三振、ダイエーのエースとして出場した99年(対中日)には1試合最多の13奪三振の記録もつくった。頻度でも質でも、日本シリーズを象徴する投手といえる。
 印象的だったのは、0勝3敗1分で迎えた86年(対広島)のシリーズ第5戦。延長10回からリリーフ登板すると、3回で5つの三振を奪う快投を見せ、12回に回ってきた打席では広島の抑えのエース・津田恒実からサヨナラ打。その後西武は息を吹き返し4連勝し、日本一に。さらに言えば、西武はその年から3年連続で日本一になっており、工藤の活躍は、西武の黄金時代の始まりを告げるものだった。87年(対巨人)のシリーズを制した際、胴上げに加わらずその周りでピョンピョン跳びテレビカメラに映ろうとしたパフォーマンスも印象深い。

[工藤公康・チャート解説]

11度の日本一を先発、リリーフとチームの求める役割で支えたことから貢献度は5。炎のストッパー・津田を打ってのサヨナラ打、中日のエース・野口茂樹に投げ勝っての13奪三振&完封などの活躍に加え、胴上げそっちのけのパフォーマンスなどが記憶に残った。物語度も5。ただ出場年はペナントレースでも活躍していた年が多い。豹変度は3。
※チャートは、“シリーズ男”に必要な3つ要素、シリーズでのチームの勝利にどれだけ寄与したかの「貢献度」、記憶に残るパフォーマンスを見せたか、エピソードを残したかの「物語度」、シリーズという舞台に適応し特別な活躍を見せたかの「豹変度」について、それぞれ5段階評価しました。(以下同)

岡林洋一(ヤクルト)

 シリーズで好投しチームを日本一に導いた多くの投手がいる中で、岡林のシリーズでの登板は1992年(対西武)の1回のみ。しかも敗退している。所属チームのヤクルトは93年(対西武)、95年(対オリックス)、97年(対西武)と繰り返しシリーズに出場しているのを考えると、キャリアにおけるシリーズでの貢献度は低い。だが、その一度の出場は印象深かった。
 岡林はペナントレース最終盤から先発、リリーフでチームを支え13年ぶりのリーグ制覇に貢献すると、シリーズでは第1、4、7戦に先発し全試合で完投。しかもそのうち2試合が延長戦で登板イニングは30回、球数は430球に及んだ。これをシリーズの開催期間である10日間のうちに投じたのだから甲子園レベルのフル回転である。その登板過多の影響も響いたのか、翌年以降の投球は精彩を欠いた。
 工藤と同様にチームの黄金時代の扉を開く役割を務めながら、その中心にいることはできなかった岡林。だが、92年の熱投は多くの人の記憶に残っている。

[岡林洋一・チャート解説]

たった一度の敗退したシリーズへの出場、という結果だけを見ると、チームへの貢献は高いとは評価しにくい。心苦しいが貢献度は3。稲尾和久(元西鉄)や杉下茂(元中日ほか)を彷彿させる大車輪の活躍は伝説的。物語度は5。活躍した92年は2年目で、ルーキーイヤーから2年続けてエース級の働きをみせていた。シリーズでの活躍は想定の延長線上。豹変度は3。

石井貴(西武)

 悲壮感と共に語られる岡林とは対照的に、どこか、ちゃっかりヒーローになってしまった印象が漂うのが石井貴だ。石井は1999年、2000年に2ケタ勝利を挙げながら、2003、2004年はケガに苦しみそれぞれ1勝どまり。ところが04年のパ・リーグプレーオフ最終戦で10回裏にマウンドに登ると、これを抑えて胴上げ投手に。さらに中日との日本シリーズでも第1、7戦に先発。13イニングを無失点に抑え2勝。ペナントレースを支えた松坂大輔、西口文也、帆足和幸らを押しのけてシリーズMVPに輝いた。シーズンの勝利数よりも日本シリーズでの勝利数が多い投手が生まれたのは史上初のことだった。 しかし、2005年は再びコンディションを落とす。2006年は中継ぎとして結果を残したが2007年に「肩が上がらない」との言葉を残し引退。冒頭でちゃっかりなどと書いたが、シリーズでの好投は、石井が肩のケガと折り合いをつけることで実現した、ベテランらしい技術の賜物だったのかもしれない。

[石井貴・チャート解説]

シリーズ出場経験は1998年、2002年、2004年と3回あり、大活躍した04年以外は敗退している。平均的に見て貢献度は3。シリーズ初戦の奇襲的起用は話題になったので物語度は4。シリーズ直前の2年で2勝、シリーズ後引退までの3年間で6勝という成績を考えると「シリーズ2勝」は驚き。豹変度は5。

その他印象に残った“シリーズ男”たち

西本聖(巨人)

 1981年(対日本ハム)に1完封を含む2完投勝利でMVPを受賞した。83年(対西武)は日本一は逃したが第2、5戦で完投勝利。シュートを効果的に投じ、対戦機会の少ないパ・リーグの打者から内野ゴロの山を築いた。

東尾修(西武)

 ペナントレースではほぼ先発を務めながら、1982年(対中日)、83年(対巨人)、85年(対阪神)のシリーズでリリーフ専任の起用。86年(対広島)では3試合に先発した。2勝1敗1Sで82年にMVP。

高津臣吾(ヤクルト)

 1993年(対西武)に3S、95年(対オリックス)に1勝2S、97年(対西武)に1勝1S、2001年(対近鉄)に2S。通算8Sは最多記録。出場したすべての日本シリーズで優勝し、すべて胴上げ投手になっている。

小林宏(オリックス)

 1995年、ヤクルトとのシリーズ第4戦11回裏、4番打者オマリーとの14球にわたる対決の末、三振に斬った活躍が語り草に。チームは敗退したが敢闘賞を受賞。

杉内俊哉(ダイエー・ソフトバンク・巨人)

 2003年(対阪神)でMVPに選ばれながら、09年(対日本ハム)、10年(対ロッテ)とCSで打ち込まれ敗退の戦犯になった。しかし、2011年(対中日)は15イニング1失点で優秀選手。巨人移籍後の結果次第で“シリーズ男”に本格的な返り咲きも?

ダルビッシュ有(日本ハム)

 2006年、07年(ともに対中日)、09年(対巨人)に出場。06年は敢闘賞、07年は優秀選手に選ばれた。09年はケガをしながらも変化球主体の投球で試合をつくり話題になった。

山井大介(中日)

 2007年、後半に調子を上げシーズン6勝。日本ハムとのシリーズでは、第5戦に初先発し、8回表までパーフェクトピッチング。しかし、勝利を優先させた落合博満監督(当時)はクローザーの岩瀬仁紀にスイッチ。大記録は幻に。

岸孝之(西武)

2008年、巨人とのシリーズ第4戦に初先発し好投すると、中2日の第6戦でロングリリーフし勝ち投手に。2勝を挙げるラッキーボーイとなりMVPに選出。大きなカーブが効いた。

内竜也(ロッテ)

2010年、ペナントレースでは出遅れるも終盤に調子を上げる。CSファイナルステージ(対ソフトバンク)で3試合、シリーズ(対中日)では4試合に登板し計7イニングを無失点に抑えた。シーズン3位からの日本一、「下克上」を支えた。

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 今回は80年代以降から選出していますが、それ以前であれば稲尾、杉下、山口高志(元阪急ほか)といった投手たちが、名投手がゆえに今では考えられないような連投を課されるのが日本シリーズの常でした。投手の分業制が定着する前の80年代までは「優れた投手を先発・リリーフ問わずにどんどん使っていく」傾向が残っており、そうした起用に耐えた西武の工藤や東尾らが「シリーズの顔」になっていました。
 7試合中3試合に先発し完投した岡林は90年代の投手ですが、彼の起用からは「優れた投手に、より多くのイニングを投げさせる」考え方の名残が感じられます。
 日本シリーズでどんな投手が活躍したか、からは時代時代の投手の使い方の基準が見えてくるのかもしれません。完全試合を達成しかけた山井を8回で降ろす、という発想は落合監督独自のものにも見えますが、球界全体の投手の使い方に対する考え方の変化が、下地にあったのでは?
 また、対戦することの少ない他リーグの打者との対戦が多いため、絶対的な決め球があると、短期決戦の間はアドバンテージを保てるようにも見えます。西本のシュートや高津のシンカー、岸の大きなカーブに、内の切れるスライダーなど??。ただ、交流戦が毎年行われ、データが蓄積されるようになっていけば、そうした状況も変わっていくかもしれません。

 今回拾い出した現役選手の中では、巨人の先発の柱・杉内、今季中日でクローザーを務める山井、西武の岸らがCS出場を決めています。またMLBではレンジャーズのダルビッシュもプレーオフ出場が決定。どの選手も、活躍すれば「シリーズ男」の名をより確かなものにしそうです。

文=秋山健太郎(スポーツライター)
イラスト=アカハナドラゴン

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