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第12回 震災と野球とWBC。

福島県の中央に位置する郡山市の、そのまた真ん中に私の母校がある。
帰省の際には必ず母校の前を通るため、そのつど、辛かった野球部の練習を思い出してしまう。練習もキツかったが、毎日のグラウンド整備が地味に嫌だった。カラッカラに乾いたデコボコのグラウンドは何度トンボがけをしても平らにはならず、「まだ段差があるじゃねーか」と何度も先輩に怒られた記憶がある。
「3・11」後、はじめての帰省となった2011年のゴールデンウイーク。久しぶりに見た母校のグラウンドは、20年前の自分に教えてあげたいほどキレイに平らたくなっていた。それは野球部何代にも渡るトンボがけが効いたからではなく、ブルドーザーで表面を削ったからだ。
福島原発から50キロ以上離れた郡山市でも、当然のように放射能汚染は深刻な問題になっていた。特に、小中学生の健康・安全面への配慮から、地表から1センチの放射線量が毎時3.8マイクロシーベルト以上を記録した市内15の小中学校について、校庭の土を除去することを市が決定した。だが、国から支援のない郡山市独自の施策のために除去した「汚染土」は行き場がなく、校庭の隅に積み上げられていた。地元の人々が「原発山」と呼ぶその盛り土は、野球部のマウンドよりも高く大きかった。

あの日から、今日でもう2年になる。

震災、そして津波は、野球にまつわる様々な「思い出」までも削り取り、洗い流してしまった。
岩手県の陸前高田市では、修繕工事中だった陸前高田市営野球場(高田松原第1球場)も大津波に襲われ、4機のナイター照明だけを残して水没した。工事終了予定日は3月15日、4月には改修記念の野球大会が開催される計画もあったという。
今、「奇跡の一本松」の存続に関して賛否が問われている陸前高田市。だがその喧騒の影で、市営球場は3月中をもって解体されることが決定している。この球場でのプレーを夢見た少年もいたはずなのに。



自然災害という巨大な存在の前では、野球という競技、そして野球にまつわる思い出や原風景は風化せざるをえないものなのだろうか?
いや、そうではないことを、我々野球ファンは知っているはずだ。

「今、スポーツの域を超えた
“野球の真価”が問われています。
見せましょう、野球の底力を。
見せましょう、野球選手の底力を。
見せましょう、野球ファンの底力を」


説明するまでもなく、楽天の嶋基宏選手が、復興支援試合の前にスピーチした際の言葉である。
3月という季節は震災を想起させるからか、WBCについて報じる言葉のなかにおいても、この「底力」が使われることが多い。

「日本野球の底力」
「侍の底力」


日本代表がみせる、まさに「底力」を発揮しての劇的なプレーや展開の数々は、野球の面白さを改めて喚起させ、ツラい日常があってもそこから前に進むためのパワーを与えてくれる。それこそが、野球の魅力なのだ。

それは、選手だけでなく、ファンもまた同じ。
8日の日本vs台湾(チャイニーズ・タイペイ)戦の観客席では、震災の際に台湾が全民を挙げて募金活動などの支援をしてくれたことへの返礼のチャンスだと、感謝のプラカードを掲げる者がいた。その映像はアメリカのテレビ局でも流れ、震災以降の日本と台湾の関係性を伝える一助にもなった。

嶋選手の言う「スポーツの域を超えた“野球の真価”」とは、こんなところに垣間見えてくるのではないだろうか。

野球をする。
野球を観る。
その、当たり前のことに熱中できることに感謝して、今週もまたWBCの熱戦に没頭したい。




文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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