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第11回『クロスゲーム』『風光る』『あぶさん』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
体力の消耗により、下半身の粘りがなくなると、三振を取りにいくときの決め球が浮きやすくなる。低めへの制球力で勝負するタイプは、この兆候が出たら危険信号である。

《寸評》
ポイントは、高めで三振を奪っているという事実。まだまだボールに勢いがあり、余力も残していると思いたいところで、じつは限界が目前に迫っているというワナ。インコースへの逆球も然り。「まだ行ける」と思ったときこそ、「もしかしたら」の落とし穴を考える場面。

《作品》
『クロスゲーム』(あだち充/小学館)第10巻より

《解説》
夏の甲子園予選。北東京大会の三回戦は、新鋭・星秀学園と王者・竜旺学院が対決。エースの樹多村光と、四番の東雄平を中心に快進撃を続ける星秀学園は、昨夏の甲子園8強&今春のセンバツ4強である竜旺学院を相手に互角の戦い。1対1のまま、八回を終える。
九回表、星秀学園の攻撃。一死ながら走者二塁の好機。打順は三番の中西大気。しかし、「静かなエース」の異名を取る竜旺学院・松島投手は動じない。初球にファウルを打たせると、外角低めの変化球でツーストライク。一球はずした後、高めのツリ球。空振り三振。
ここで竜旺学院ベンチが動く。まさかの投手交代。降板した松島は、「不満は?」という監督の問いかけに、淡々とした口調で答える。
「……ありません。低めで勝負するおれが高めで三振を奪った時は フォームが崩れた証拠です」
異名に恥じない、冷静な自己分析だった。


★球言2


《意味》
強豪校であるにもかかわらず、シード権を得ていないということは、例年よりも弱いと考えがちだが、そういう年のチームこそ、元シードのプライドから一念発起し、大躍進するもの。

《寸評》
作中、高校野球の「ジンクス」として紹介された。シード外となった強豪校は、その地力に加え、一回戦から勝ち進んできた勢いにも乗るため、厄介なチームへと変貌しやすいのかも。とりわけシード校の初戦に、元シードが勝ち上がってきた場合、番狂わせがよく起こる印象。

《作品》
『風光る』(七三太朗、川三番地/講談社)第8巻より

《解説》
東京六大学野球の三冠王打者だった君島を新監督に迎えた多摩川高野球部。就任早々、モノマネが得意な野中ゆたかをエース兼四番に据えた君島は、部員たちのやる気を尊重しながら、チーム力の向上を図る。
迎えた夏の南東京大会予選。レベルアップした多摩川高は、一回戦、二回戦を連続コールド勝ち。順調に三回戦進出を果たす。
次の対戦相手は、京王高と昭文館高の勝者。敵情視察をするため、多摩川高ナインはバスで試合会場へ向かう。
道すがら、昭文館高のことを知らない部員たちへ、解説を加える君島監督。
「今年はシードを逃しは したものの 常に甲子園を狙えるラインに食い込む強豪だ おどかすようだが シードをはずされた強豪ほど要注意というジンクスがある」
古豪を警戒する君島監督の言葉とは裏腹に、ナインの多くはコールド勝ちで生まれた自らの油断に気付かず……。


★球言3


《意味》
ボールを最後まで目で捉えることができれば、たとえ身体が泳いでも打球は飛ぶ。反対に、打つ前から飛んでいく方向を見たら、絶好球を打っても失速してしまう。

《寸評》
アッパースイングでも腰砕けでも、ホームランを放つあぶさん(=景浦安武)のバッティングを世界の王さん(=王貞治)は「景浦の目に打たれた」と表現。ボールから目さえ切らなければ、アゴは上がらず、身体も開かない。当たり前のことがどれほど重要かを思い知らされるエピソード。

《作品》
『あぶさん』(水島新司/小学館)第23巻より

《解説》
1981年のプロ野球オールスター戦。パ・リーグ代表に選ばれた景浦安武は、3試合連続の代打ホームランという離れ業をやってのける。しかも3本目は、江川卓の9連続奪三振を阻止する貴重な一発。完全に体制を崩されながらも、スタンドまでボールを運ぶ景浦の打撃に、「どうして?」とベンチで首を傾げる江川。隣に立つ王貞治が、すかさず答える。
「おまえは景浦の目に打たれたんだ。(中略)たとえば絶好球でタイミングも合った…ところがスタンドにいかない……なぜだ、自分の目が好球を変化させているからだ。打つ前から飛んでいく方向を見るからだ」
2人の会話をベンチ前列の席で聞いていたのが、ヤクルトスワローズの大杉勝男。いい話を耳にしたとばかりに、すぐさま独りごちる。
「目で打つ……なるほど、良きヒントだ。スランプ脱出だ」

※次回更新は1月15日(火)になります。


文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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