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ボンカレーの誕生月から、改めて王貞治を思う。/9杯目

 今からちょうど50年前の1964年。のちに世界の食文化を大きく変える商品の開発がスタートした。そして、試行錯誤を続けること4年、1968年2月12日に発売されたのが、世界初のレトルト食品、大塚食品の「ボンカレー」。つまり2月は、ボンカレーの誕生月なのである。

 若い人にはピンと来ないかもしれないが、「カレーと野球」の関係性がより深まったのは、この「ボンカレー」のおかげと言っても過言ではない。なぜなら、商品発売開始からちょうど10年後の1978年、新商品「ボンカレーゴールド」の発売とあわせ、テレビCMで巨人の王貞治が起用されたからだ。「おいしさ三重丸」の意味が込められたパッケージの丸印に、ボールの縫い目があしらわれたタイプがあったことも、40代以上の方なら覚えているのではないだろうか。

 1978年といえば、世界記録となる756本塁打を放ち、国民栄誉賞が授与された翌年にあたる。まさに王貞治人気の絶頂期であり、長嶋茂雄の引退後、当時の日本でもっとも有名で、子どもたちのヒーローであった王がCMキャラクターに起用されたのは、ある意味、納得だ。

 ところが、この1978年は王人気のピークであると同時に、打者・王貞治の終わりの始まりの年でもあった。この年、前人未到の通算800号を達成するも、シーズン本塁打は39本に終わり、本塁打王のタイトルは44本の山本浩二(広島)の手に。王が最初に本塁打王のタイトルを獲得した1962年以降、ケガで出遅れた1975年を除いて、本塁打王を逃したのは、この年が初めてのことだった。打点王はなんとか獲得し、8年連続と延ばしたものの、これが最後に獲得した主要打撃タイトルとなった。

 そして1979年は33本、1980年は30本と本塁打の数は年々減り続け、「王貞治のバッティングができなくなった」という有名な文句を残して引退の道を選ぶことになる。極端な話、王の選手キャリアは、「ボンカレー以前」と「ボンカレー以後」に分けることができるのが、何とも皮肉な結果と言えるだろう。

 余談だが、ボンカレーのCMに王が起用された背景には、あの名作アニメ『巨人の星』の影響もあったといわれている。

 1960年代から、日本テレビ系土曜夜7時(その後、日曜夜7時)の枠は、大塚製薬をはじめとする大塚グループ提供の番組が放送されていた。古いところでは『とんま天狗』や『黄金バット』、そして『巨人の星』もこの枠での放送だった。そして、番組の主演俳優を大塚グループの自社コマーシャルに出演させるのがお約束だったのだ。

 たとえば、かつて大村崑さんが大塚製薬の「オロナミンC」のCMキャラクターだったのは、彼が『とんま天狗』の主演を務めていたから。その流れで、のちに大村崑さんと星飛雄馬はオロナミンCの看板で共演を果たしている。そしてこの『巨人の星』での縁で、1976年から巨人の選手がオロナミンCのCMに起用されるようになり、1978年からはボンカレーのCMで同じ巨人ということで王貞治が起用されたのだ。

 ボンカレーと王貞治の関係性を紐解くことで、「オロナミンCは小さな巨人です!」という有名なキャッチコピーとの関係性まで見えてくるのが、なんとも興味深い。

◎ボンカレーゴールド中辛 180g(定価税込168円)
現在は、伝統の「三重丸」がパッケージに復活している。




文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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