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第三回:変化球のおさらい(1)

球種の特徴と使い方
キビタ:今回は変化球についてのおさらいです。ここは「初歩の初歩」なので避けて通れません。
久保:打者も狙いや意図を持って打席に入りますが、基本的には来た球に対応するリアクションになります。主導権を握っているのはバッテリー。その意図がわかれば、試合の流れも見えてきます。

○真っすぐ系
キビタ:まずは真っすぐ系に分類されるストレート、ツーシーム、カットボールを説明します。
久保:大まかに分類する際には真っすぐ系、曲がる系、落ちる系の3つに分けるのが一般的です。

・ストレート
キビタ:まずはストレート。ストレートという表現をしますけど、必ずしも軌道が真っすぐだとは限りません。真っすぐのつもりで投げても、ピッチャーによっては多少ボールが動くこともあります。
久保:念のためにフォーシーム、ツーシームという言葉もおさらいしておきましょう。ボールが縦に1回転する間に、ボールを横切る縫い目が4回現れるのがフォーシーム。2回しか現れないのがツーシームです。
キビタ:フォーシームはバックスピンのかかった、きれいな真っすぐ。昔の江川卓投手(元巨人)だったり、阪神で投げていた藤川球児投手(カブス)が代表的です。

・ツーシーム、シュート
久保:近年ツーシームとシュートは、ほぼ同じような扱いを受けていますが。
キビタ:意図的に曲げて、打者の懐に食い込ませるのがシュート。真っすぐと同じ腕の振りで、握りを少しだけ変えているのがツーシームという違いがあります。どちらも打者を詰まらせる目的で使います。空振りを取るというより、バットの根本に当てさせたり、ゴロを打たせるときに使います。
久保:左打者の懐を攻められる左投手が重宝される時代ですから、左対左でシュートもしくはツーシームが使えるかどうかも、ひとつのポイントになっています。
キビタ:同じ食い込む球ですが、ツーシームの方が若干沈むイメージがあります。だから打者が「真っすぐだ!」と思って打ちに行くと、ボールの上っ面を叩いてしまいます。
久保:自打球も多くなりますか?
キビタ:そうですね。プロのレベルにもなると、きれいな真っすぐを打ち損じて自打球になることはまずありません。プロの選手が自打球になる球はほとんどが食い込む球だと判断していいと思います。
久保:シュートは西村健太朗(巨人)が投げています。ツーシームは黒田博樹投手(ヤンキース)、ヤクルトの館山昌平投手が有名ですね。ルーキーの東浜巨投手(ソフトバンク)もかなりツーシームを使っています。

・カットボール
キビタ:カットボールも真っすぐ系に入れていいでしょう。以前は、右投手が左打者の懐を攻めたくても、力のある真っすぐを厳しく突くことができず、スライダーも甘いと長打の危険があるので外一辺倒ということもありましたが、この球種の登場で左打者の懐へ思い切って攻める配球が増えました。左投手の右打者に対する攻めも同様です。
久保:カットボールの流行はひとつの分岐点だったんですね。
キビタ:マリアーノ・リベラ投手(ヤンキース)みたいに150キロを超えてギュイーンと曲がるカットボールを投げる人もいますけど、本来はボール1個、2個ぐらい曲がるぐらいの球です。日本では川上憲伸投手(中日)、石井一久投手(西武)、三浦大輔投手(DeNA)あたりが有名でしょう。


○曲がる系
・カーブ
キビタ:曲がる系のカーブはひねりを加える球です。親指で弾いて、ドライブ回転をかけるので、一度浮きあがってから沈むように見えます。
久保:縦に曲がり落ちるカーブを、昔はドロップと呼んでいました。
キビタ:カーブはあまり速くない球ですけど、以前はもっとスピードのあるカーブを投げる投手もいました。昔の佐々岡真司投手(元広島)や桑田真澄投手(元巨人ほか)が投げていたカーブですね。2人のカーブは速さがあって、ブレーキが効いていました。ひねるのが苦手な人は、ほとんどひねらずに、親指と人差し指の間から抜いて投げたりもします。
久保:いずれにしても、キレのいいカーブは打者からしたら「邪魔な球種」だと言われます。
キビタ:カーブが来ると予想していないときに投げられると、打者は面食らいます。目線が一度上がるので、あれっと思って手を出せなくなります。だからカウント球、特に初球に使われることが多いです。
久保:高校の指導者のなかには「カーブは遅いからバットに当てられる。だから決め球にはならない」という教え方をする人もいます。裏を返せば、カーブを決め球にできる人はスペシャルな存在とも言えます。またいいカーブを投げられる人はフォームが理にかなっているとも言われます。
キビタ:カーブで代表的なのは吉川光夫投手(日本ハム)。2012年はちょっとカーブが少なめだったかな? あとは岸孝之投手のカーブは回転数も多くて空振りが取れますね。ウルフ投手(日本ハム)、ホールトン投手(巨人)のパワーカーブは力勝負が挑める、外国人投手独特の球種です。リリース直後は勢いがあるので、肩口からインコースに曲げて見逃しを狙うこともあります。
久保:そのあたりは日米の差でしょうかね。


▲石川歩投手(東京ガス)はキレイなフォームから良いカーブを投げる


・スライダー
キビタ:スライダーは、腕を振って外にスライドしていく変化球の総称です。比較的投げやすい球なので、ほとんどの投手が投げています。
久保:ドラフト候補の好投手を下手に文章にすると、ほとんどが「140キロを超す直球とキレのいいスライダーが武器」になってしまうくらいです。
キビタ:昔だったら伊藤智仁投手(元ヤクルト)のスライダーは曲がり幅が大きく、横にスライドしていました。近年なら新垣渚投手(ソフトバンク)のスライダーがよく曲がりますね。内角から曲がって外角へ逃げていくくらいの曲がり幅です。田中将大投手(楽天)は横のスライダーもありますけど、縦のスライダーが有名です。縦に鋭く落ちるから、フォークとほとんど見分けがつきません。
久保:個人差がありますけど、理論上はボールに横回転をかけると、横にすべるスライダー。ボールの打者寄りを切ってドライブ回転をかけると、縦スラになると言われています。

・シンカー、スクリューボール
久保:シュートは先ほどツーシームのところでほとんど説明してしまいましたから、シンカー、スクリューはどうでしょう。
キビタ:シンカーもスクリューも、軌道はほぼ同じです。シンカーはサイドスロー、アンダースローの投手がよく投げる球で、シュートしながら沈みます。ただ、投げ方や握りはまちまちで、テニスのドライブのように下向きの回転を強烈に与えるものもあれば、やや抜き気味のものもあります。最近は攝津正投手(ソフトバンク)や吉永健太朗投手(早稲田大)のようにオーバースローからシンカーを投げる例もありますが、2人の投げ方は全然違いますしね。また、スクリューは左投手だけの名称になっていますね。山本昌投手(中日)、高橋尚成投手(カブス)に代表されるように、左投手が右打者の外に投げる球です。
久保:右打者が外に追いかけるような打ち方をしているときは、スクリューやチェンジアップの可能性が高いですね。
キビタ:左投手のクロスファイアーを意識している打者はかかと側に体重がかかっているので、そういう選手は外への対応が遅れがちになります。

▲オーバースローながら例外的にシンカーを投げる吉永健太朗投手(早稲田大)。実際の握りはチェンジアップに近い。

久保:予定よりも文字数が多くなってしまった。変化球のおさらいは次回も続きます。

※次回更新は1月15日(火)になります。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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