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オーストラリアは今が野球の季節。そこで再会したオクスプリング、具臺晟

☆4年ぶりのオーストラリア

 ブラックタウンのボールパークは、相変わらず遠かった。シドニー・ブルーソックスとは名ばかりで、そのホーム球場は中央駅から電車で小1時間かかる郊外の駅からさらに20分も歩いたところにある。

 4年ぶりのオーストラリア野球は変わっているようで変わっていなかった。日が沈めば半袖ではいられなくなる寒さの中でも、ファンの多くはナイターの試合中にビールをがぶ飲みしている。事前にコンタクトをとり、この球場で受け取ることになっていたメディアパスも、案の定、用意はされていなかった。球団スタッフは、別にそれを気にすることもなく、

「それがどうした? 取材はもちろんウェルカムだ」

 と、私の額から吹き出ていた汗を指でふき取りながら、迎えてくれた。

 バックネット裏の記者席はなくなっていた。塁間の半分ほどのエリアに1500人ほどしか収容できなかったスタンドは、500席ほど増設されていた。ネット裏には砂かぶり席が、一塁側には簡易スタンドが設置され、三塁側にはアメリカのマイナーリーグの球場によく見られるパーティースペースが作られていた。鉄パイプに木の板をはめ込んだだけのこの桟敷を加えても収容人数はざっと2000人。それでもシドニー五輪のサブ球場として建設されたこの球場は、野球専用スタジアムとしては国内最高級の施設である。

 前回、ここを訪れた時は、チームも首位争いをしていたこともあってか、スタンドはほぼ満員だった。

「土曜日のナイターは元々よく入るんだけどね、平日は半分くらいかな」

 案内人役を買ってくれたアルバイト学生は、私を三塁側スタンド上にあるVIPルームにエスコートしながら、客の入りについて語ってくれた。この日は、VIPルームの予約がないので、ここを記者席代わり使ってくれとのことだった。



☆懐かしい顔との再会〜元阪神・オクスプリング〜

「で、オクスプリングはどうなんだい」

 アルバイトくんは、日本でもおなじみの名を挙げてきた。シドニー・ブルーソックスの球団創設以来、看板選手として活躍してきたクリス・オクスプリングである。日本においては、アテネ五輪の準決勝、オールプロで臨んだ日本代表の前に立ちはだかり、その後、阪神でプレーしたことで知られている。オーストラリアでは、銀メダルの立役者にしてメジャーリーガーとして名を馳せている。

 残念ながら、日本では目立った活躍ができず、1シーズンで退団することになった。その後、韓国のLGツインズで2ケタ勝利を挙げ、メジャー返り咲きを目指し、デトロイト・タイガースとマイナー契約を結ぶなど奮闘を続けた。2013年には、WBC直前の強化試合として組まれた侍ジャパンとの試合に先発し、京セラドーム大阪で凱旋登板を果たしている。

 2013年シーズン直前にロッテ・ジャイアンツと契約し、韓国球界に復帰。そして、2年連続で2ケタ勝利という成績を残した。まだまだ健在であることを印象づけて迎えた今オフは、体を休めるため、ウインターリーグへの参加を見送った。

 とは言え、ブルーソックスの一員であることには変わりなく、ホームゲームには、Tシャツ・短パンという、関係者いわく「おなじみの」ラフな格好でやってきて、若い選手のコーチ役を買って出ている。この日も、ベンチで熱心に若い投手に薫陶を授けていた。

 そんなオクスプリングに話を聞いた。ここ数年の様子について話してもらった後、日本野球についての印象を聞いた。

「そうだね。スモールボールもいいんだけれども、しっかり長打を打つことも意識したほうがいいじゃないかな。ファンだってそのほうが喜ぶだろ?」



 国際経験豊富な彼は、現在の日本球界の抱える根本的な問題を指摘した。

 次のWBCでもプレーするのか? という問いには

「もちろん、選んでもらえればね。まだまだプレーはできるよ」

 と、いらずらっぽく笑うベテランは、いましばらくは野球界の渡世人として、お呼びがかかる限り、グラブ片手に世界中を旅するつもりのようだ。ちなみに、2015年は韓国プロ野球の新球団・KTウィズのメンバーになることが、すでに決まっている。

45歳でも現役を続行中〜元オリックス・具臺晟〜

 ところで、もう一人の大物はなかなか来ない。

「彼はいつも遅れてくるからね」

 試合の終盤にしか登板することがないので、球場入りはいつも試合直前らしい。仕方なくスタンドを出ると、なんと当の本人が目の前にいた。コーヒー売りのワゴンの列に並んでいる。

 具臺晟(ク・デソン)だ。

 シドニー五輪で日本代表を抑えこんだ銅メダルの立役者。その後、オリックス、メジャーでもプレーした韓国球界のレジェンドだ。

 4年前にここで話を聞いた時は、「あと2年はプレーしたいな」と言っていた。しかし、現在45歳であっても、まだ現役を続行中である。「50歳まで頑張るのか?」という問いには「いや、そこまではないよ」と笑って返してきた。

「リーグから声がかかるもんだからさ」

 「なぜ、まだプレーするのか」との問いに、以前と同じ答えを返してきた。しかし、「まだ体も動くんでね」の一言を今回は付けくわえた。



 彼ら2人の大物を目にして、改めて野球のグローバル化と日豪野球の関係の深さをつくづくと感じさせられた。

 この日の試合もそうだ。対戦相手のブリスベン・バンディッツの先発は、BCリーグ・ 富山サンダーバーズで2ケタ勝利を挙げた高塩将樹。シドニーの先発は、ドイツ人のマーカス・ソルバック(ダイヤモンドバックスA級)。その後も、シドニーはトッド・グラタン、ブリスベンは後藤正人(ともに元香川オリーブガイナーズ)の四国アイランドリーグ経験者をリリーフに送った。


▲元アイランドリーガーの後藤正人

 南半球で行われている多国籍のプロ野球。ABL(オーストラリアン・ベースボールリーグ)の本質を改めて感じさせられて、私は球場を後にした。昼間の汗ばむ暑さとはうって変わって、帰りの電車待ちのプラットホームでは寒さが身にしみた。


■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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