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「『勢い』と『流れ』は違う」「ハーフバウンドは座って処理する」《今回の野球格言》

《今回の野球格言》
・縦の変化はヒザ、横の変化はヒジで追え。
・「勢い」と「流れ」は違う。
・ハーフバウンドは、座って処理する。

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1


《意味》
 変化球をコンパクトに打ち返すための心得。縦に曲がる変化球に対してはヒザのクッションで、横に曲がる変化球に対してはヒジのコントロールで、ミートポイントを調整すること。

《寸評》
 縦の変化をヒザで追うことができれば、上半身のフォームを崩さずに済む。すなわち顔がブレたり、バットのヘッドが下がることを防止できる。横の変化をヒジで追えれば、バットのヘッドを返さずに済む。すなわちミートの確率が上がる。

《作品》
『4P田中くん』(七三太朗、川三番地/講談社)第39巻より


《解説》
 春の大詰め、センバツ決勝戦。小さな大選手・田中球児を4番・ピッチャーに据える栄興学園は、甲子園3連覇を狙う広南を相手に接戦を演じる。

 9回裏、2死満塁。1点を追う栄興学園は8番・葉柴に代わり、河野をピンチヒッターに送る。

 初めて公式戦の打席に立つ河野は、自分が尊敬する田中と同じように、「最大のピンチを最大のチャンスと置き換え 光るためにトライしよう」と心に決め、打席に立つ。

 2球で2ストライクを取られた直後。広南の絶対的エース・伊坂徹に変化球のクセがある、と気づいた栄興学園はタイムを要求。コンパクト打法における変化球への対応を河野に確認する。

「縦の変化には膝で追い………横の変化には肘で追えでしたよね…」

 河野の答えに、田中は「んだんだ」と満足そうにうなずいた。

★球言2

《意味》
 普段、一緒くたに考えられがちな「勢い」と「流れ」だが、厳密に言えば両者は異なる。たとえ勢いのあるチームでも、その勢いをうまく断ち切られてしまえば、流れは相手に向いてしまう。

《寸評》
 勢いが乗る≠烽フなのに対し、流れは作る≠烽フ。勢いは増減する≠ェ、流れは変化する=B似たような言葉でも、その性質はだいぶ違う。試合巧者と呼ばれるチームは、2つを変換するのが上手い。相手の勢いをいなし、傾いた流れを自分たちの勢いに変えてしまう。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第5巻より


《解説》
 学校側と沖縄合宿をかけた彩珠学院の練習試合。鳩ヶ谷圭輔監督は、強敵・聖母学苑から先制点を取るため、攻撃的なオーダーで試合に挑む。

 鳩ヶ谷の狙いは見事にハマり、いきなり初回に1番・日高直哉が先頭打者ホームラン。さらに4番・大宮剛士も2ランを放ち、3点を先制する。

 初回の攻撃が終わり、「これで勢いがつきました」と喜ぶ部長の毛呂山豊。しかし、鳩ヶ谷は「勢いと流れは違うんだよ」と釘を刺す。確かに、大宮のホームランまでは「流れはこっちに向いていた」が、直後に聖母学苑のナインがマウンドへ集まり、エースの明石慎之介へ声をかけたことで、彩珠学院の勢いは寸断されてしまっていた。

「さすが関東大会優勝校。教育が行き届いているぜ」

 鳩ヶ谷は眉間にシワを寄せ、相手ベンチを睨んだ。

★球言3

《意味》
 タッチプレーの際、捕りにくい中途半端なワンバウンド送球が来たら、その場に座って処理するとよい。目の高さでキャッチすることができ、素早いタッチも可能だからである。

《寸評》
 天性の守備職人・殿馬一人が披露した捕球技術。ハーフバウンドの送球は、前に出ると捕りにくく、後ろに下がるとタッチしにくい。座って処理することで、どちらのリスクも回避できる。目立たない技術だが、その積み重ねがビッグプレーを招く。

《作品》
『大甲子園』(水島新司/秋田書店)第2巻より


《解説》
 神奈川大会の決勝戦にて、白新・不知火守から5度目の挑戦を受けることになった明訓。山田太郎ら主力の3年生たちにとっては最後の夏。横浜スタジアムには5万人を超えるファンが詰めかけていた。

 試合は両者とも無得点のまま、延長戦へ突入。10回表、4番の不知火が4度目の打席に入る。

 初球はストレート。高めのボール球。これを不知火は強引に引っ張り、レフトフェンスの最上段を直撃。一塁を蹴って、二塁へ向かう。

 クッションボールをつかんだ明訓の左翼手・微笑三太郎は、二塁手の殿馬一人へ送球。が、中途半端なハーフバウンドになってしまう。前か後ろか、判断の難しい送球に対し、殿馬はその場にヒザをついて対処。間一髪で不知火をタッチアウトにした。


■ライター・プロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。幅広い書籍、雑誌、webなどで活躍。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」(http://bbc-lab.seesaa.net/)好評配信中。

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