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強豪校がまさかの敗退!高校野球の“ジャイアント・キリング”とは?<高校野球ジャーナル:第1回>

 7月も中旬に入り、地方大会がスタート。いよいよ全国的に甲子園への切符を懸けた闘いの火蓋が切って落とされた。地方大会の序盤戦で毎年のようにお目にかかるのが「あの強豪校が初戦敗退」といった見出し。今年も早速といっては失礼だが、優勝候補と目されていた九州国際大付(福岡)が初戦で敗退。2010年に春夏連覇を達成した興南(沖縄)、1999年に全国制覇した桐生第一(群馬)も敗れるなど、強豪校が早くも姿を消している。そんなサプライズが全国各地で起こるのも、地方大会序盤の醍醐味といえるだろう。

 逆にいえば、劣勢を予想されながら勝者となった学校は「〇〇高校、大金星!」となるわけで、弱者が強者を破るドラマ、いわゆる“大物喰い”や“番狂わせ”と呼ばれる試合は、いつの時代もファンを魅了してやまない。そこで今週の高校野球ジャーナルでは、過去の甲子園大会で起きた“大物喰い”列伝を紹介しよう。

 地方大会を含めてしまうと、それこそ毎年のように全国各地で“番狂わせ”が起きているので、紹介するには余りにもスペースが足りない。そこで今回は甲子園大会の試合に限らせてもらった。また“大物喰い”の定義は難しく、読者の皆さんにとっての“番狂わせ”は、それこそ生まれた世代によって異なることがあるかもしれないが、そこはご了承願いたい。

◎高校野球ジャーナルが選ぶ
「甲子園“大物喰い”五番勝負」


■なんと第1回大会から “番狂わせ”は存在した!

 時代は一気に遡って1915(大正4)年の第1回大会。鳥取中vs広島中の開幕戦、今年で95回に及ぶ“全国中等野球大会”、 “全国高校野球選手権大会”の歴史の幕が開かれたのである。その第1回大会で“大物喰い”をみせてくれたのは、秋田中であった。東北の田舎チームで、試合経験も少なくたいしたチームではないだろうと予想されていたが、格上と見られていた東海地区の山田中に大勝。

 準決勝では東京の一流チームで優勝候補の早稲田実業(東京)を3-1で破った。早実側は「秋田には負けることはない」と油断していたようで、ランナーを出すものの、ちぐはぐな攻撃でペースが掴めず、逆に秋田中は後に明治大で活躍する長崎広投手を中心に堅守をみせ、強豪の足元をすくう“大金星”をあげた。決勝では京都二中に敗れたが、記念すべき第1回大会を盛り上げたことは間違いないだろう。

■公立高校が私学を撃破。これぞ“大物喰い”の醍醐味!

 ”番狂わせ”の定番中の定番といえば、私学を公立校が破るケース。いわゆる野球学校の球児に対して、公立高校の“普通の高校球児”が強者を倒すその試合は野球に関わらず、ファンの胸を熱くすることは間違いない。

 そんな典型的な試合をみせてくれたのが1971(昭和46)年の第53回大会で旋風を巻き起こした東北代表の磐城高校だ。平均身長167センチと代表校のなかで一番小さなチームが強豪・日大一(東京)に快勝。エース・田村隆寿は165センチと出場チームの投手の中で一番小さかったが、抜群の制球力を武器に日大一をシャットアウト。

 続く静岡学園戦、準決勝の郡山戦もあわせて、決勝までの3試合を連続完封するという素晴らしい投球をみせた。決勝は0-1で桐蔭学園(神奈川)に敗れたが、実に磐城が甲子園で34イニング目に許した失点だった。

 田村以外の選手も小さいながらキビキビしたプレーを見せたことで、甲子園のファンを味方につけたのだろう。ちなみに優勝した桐蔭学園の捕手は今年の夏の大会限りで勇退する土屋恵三郎監督その人であった。

■無敵艦隊「池田高校」を撃沈したのは1年生コンビ!

 “打倒・池田”は当時の甲子園出場校の悲願だったといえるだろう。夏に勝ち、春に勝って甲子園を我が庭のように闊歩していた池田(徳島)は、史上初の三連覇を目指して1983(昭和58)年の第65回大会にやってきた。“阿波の金太郎”と呼ばれたエース・水野雄仁(元巨人)が独特の投球フォームで相手打線を抑え、準々決勝で中京(愛知)を3-1で破る。事実上の決勝戦といわれたこの試合に勝った池田は甲子園15連勝を飾り、ファンも池田の三連覇は決まったと思っていただろう。

 しかしここで予想外の難敵が現れた。桑田真澄(元巨人ほか)、清原和博(元西武ほか)がまだ高校1年生だったPL学園(大阪)である。1年生ながら落ち着いた投球をみせる桑田は“やまびこ打線”を相手にスイスイと投げきり、自ら本塁打を放つなど大活躍。

 0-7で池田に土をつけたのだった。無敵と呼ばれた池田がまさかこんな形で敗れるとは…。82年夏の徳島県大会から公式戦負け知らずの連勝記録も38でストップ。

 逆にPL学園はこの勢いをさらに加速させて迎えた決勝戦では横浜商(神奈川)と対戦。清原和博の本塁打などで三浦将明(元中日)を攻略し見事、優勝旗を手にした。PL学園・KKコンビ時代の幕開けである。

■「がばい旋風」が吹き荒れた!「この子たち、こんなに上手だったかなあ」

 こちらも公立高校が大仕事をやってのけたケース。2007(平成19)年の第89回大会では「がばい旋風」が吹き荒れた。読者のみなさんならご存じ、公立高校の佐賀北の全国制覇である。

 大会初日の開幕試合に登場し2-0で福井商を破ると、2回戦の宇治山田商(三重)との試合は、延長15回引き分けを経て、再試合を制した。このあたりからジワジワと甲子園のファンを味方につけると、準々決勝では優勝候補の帝京(東東京)を延長の末に下して、そのままの勢いを決勝戦でも発揮。土壇場の8回裏に一挙5点を奪って広陵(広島)を5-4で破り、深紅の大優勝旗を手にした。

 公立校の優勝は、78回大会の松山商(愛媛)以来11年ぶりだったが、松山商といえば言わずと知れた名門中の名門校であり、古豪でもある。それと比べると佐賀北は全国どこにでもある“普通の公立校”といえる学校であり、 全国の高校球児を勇気づける優勝だった。「この子たち、こんなに(野球が)上手だったかなあ」とコメントした百崎敏克監督も驚くほどの大会期間中の成長ぶり、はつらつとしたプレーは高校野球ファンの心をつかんだ。

■まさかの!? 逆転満塁ホームランで強豪校をうっちゃった!

 記憶に新しいところでは2011(平成23)年の第93回大会に5年振りに出場した八幡商(滋賀)だ。前年の滋賀県大会では初戦敗退していた八幡商。雪辱を期して迎えた、この夏の県大会では北大津や近江に注目が集まったが、決勝で北大津を逆転で破るなど、地区大会でも“金星”をあげて、甲子園への切符をつかんだ。

 甲子園の初戦は山梨学院大付と対戦し、主将・白石智英の満塁本塁打で撃破し勢いづいた。続く相手はこの大会で優勝候補に挙げられていた帝京。八幡商は9回まで二塁すら踏めない劣勢だったが、最終回にドラマが起こる。一死からの三連打と相手エラーで1点を返し、なおも満塁のチャンス。ここで遠藤和哉が甲子園大会史上初の9回逆転満塁ホームランを放って一気に逆転。5-3で横綱・帝京をうっちゃった。同一大会で1チーム2本の満塁本塁打は史上初めてというおまけ付きのインパクトのある“大物喰い”だった。

 もちろん甲子園大会に絞っても星の数ほど“大物喰い”の試合はあるのだが、今回は泣く泣く5試合に厳選。そして読者の皆さんにとって、自分だけの“番狂わせ”もあるだろう。

 日本語の“番狂わせ”に相当する言葉を英訳すると、上位にランクされた他の競技者を打ち負かすことを意味する語として、Giant-Killing(ジャイアント・キリング) がある。いわゆる“巨人殺し”=“大物喰い”だ。この夏、歴史に残るような新たな“大物喰い”に、我々高校野球ファンは出合うだろうか。




文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

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