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第14回『風光る』『ONE OUTS』『砂の栄冠』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!


★球言1



《意味》
変化球とストレートでは、投手から捕手に届くまでに0.2〜0.3秒程度の差が生まれる。この間に、走者は2メートル弱の距離を進むため、本来アウトになるはずの盗塁でもセーフにすることができる。

《寸評》
5年連続盗塁王の記録を持つ赤星憲広(元阪神)は、捕手の配球だけでなく、構えのクセも見抜いて変化球を狙っていたという。「どっしりとミットを構えたときはストレートがくるが、とりあえずこのあたりに投げてこいと、軽い感じで構えたときは変化球がくる」(※12)という捕手もいたとか。

※12・『頭で走る盗塁論』(赤星憲広/朝日新聞出版)より

《作品》
『風光る』(七三太朗、川三番地/講談社)第40巻より


《解説》
南東京代表として甲子園に出場した多摩川高。二回戦で早くも、大会最強と目される関大淀川高と対戦する。
序盤に4対1とリードを得た多摩川高に対し、関大淀川高は三回裏、先頭打者の八番・桑原がセンター前ヒットで出塁。反撃の狼煙を上げる。
一塁走者となり、大きなリードを取る桑原。彼は、大阪予選で10個の盗塁を記録している足の専門家だった。曰く、「もともと野球は 盗塁は間に合わんようにでけとる」。世界の盗塁王・福本豊の「変化球の時に走るんや!!」という言葉を引き合いに出しながら、桑原は持論を展開する。
「変化球はストレートの時より0.2秒 いや0.3秒ほども遅くキャッチャーに届く!! ランナーが走って0.2秒の時間は 距離にすれば 2メートル弱ほど塁に近づく この差が 間に合わんもんも 間に合うようにするんや」
言葉通り、変化球のタイミングでスタートを切った桑原は、あっさりと二塁を陥れるのだった。


★球言2


《意味》
人間は、自分の予想より低いコース、あるいは外側に来たボールには対応しやすい。ゆえに、配球を読まない打者の多くは、自分がもっとも対応しにくい内角高めをイメージして打席に立っている。

《寸評》
普段あまり意識したことはないが、指摘されれば「確かに」と頷ける言葉。理屈上はもっとも対応しやすいはずの外角低めが、実際には一番打たれにくい理由も、じつは打者の多くが「インハイのストレートをイメージしている」ことが一因になっているのかもしれない。

《作品》
『ONE OUTS』(甲斐谷忍/集英社)第18巻より


《解説》
埼京彩珠リカオンズの変則投手・渡久地東亜。彼は「低速なのに高回転」という独特のストレートを駆使し、プロ野球の並み居る強打者たちを封じ込めていた。
渡久地が投げるストレートの特殊性に、いち早く気付いた千葉マリナーズの高見樹は、私財6000万円を投じ、「模擬 渡久地 ピッチングマシン」を作成。チーム全体での「低速高回転ボール」打倒を目指す。
高見は言う。渡久地のボールを打つためには、「2つのストレートのイメージを持って 打席に立つ」必要があると。
「『ヤマを張らない』打者とか『来た球を打つ』打者っていうのは 何も考えず 打席に入っているかといえば 実は そうではなくて 彼らの多くは インハイ(内角高目)のストレートのイメージを持って 打席に立っています」
高見によれば、この「インハイのストレートとは別に 低速高回転ボールのイメージを持っておく」ことで、渡久地を攻略できると言うのだが……。


★球言3


《意味》
強いチームは、投手力に優れているため、配球を工夫する必要がない。極めてシンプルな組み立てを多用してくるので、狙い球を絞った作戦も有効である。

《寸評》
そもそもオーソドックスな配球とは、もっとも抑える確率が高い構成になっている。明らかな実力差があるなら、わざわざ奇を衒う必要はない。しかも高校野球の場合、試合は一発勝負のトーナメント形式がほとんど。同じ投手と何度も対戦するプロ野球のような、高度な駆け引きを求められる場面がまず乏しい。

《作品》
『砂の栄冠』(三田紀房/講談社)第6巻より


《解説》
21世紀枠でのセンバツ出場を目指す樫野高は、秋の関東大会に出場。名門私立の東横浜高と、一回戦で接戦を演じる。
2対1と僅差で突入した九回裏。同点を目指す樫野高は、チームの柱である七嶋裕之が四球&盗塁。二死二塁のチャンスを作る。打席に立つのは、五番のズッキこと鈴木康貴。ここで七嶋は、鈴木に対する東横浜高の配球を「外 外 スライダー」だと読む。
「このパターンは絶対に変えない その理由は・・・・東横に限らず 全国の強豪校のバッテリーの配球は いたって単純だから それは投手の力が優れているので それだけで打者を抑えられてしまう わざわざ考えて工夫する必要がないからだ」
相手の組み立てを見抜いた七嶋は、2球目に意表を突くラン・エンド・ヒットを敢行。打席に入る前、鈴木と事前に打ち合わせていた作戦だった。三遊間を抜ける打球。三塁コーチャーの制止を振り切った七嶋が、ホームへと突入する。


文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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