甲子園で魅せたあの150キロはいま……元DeNA・北方悠誠、復活の鍵は“でんでん太鼓”だ!
11月9日、静岡・草薙球場で開催された、プロ野球12球団合同トライアウト。1週間以上経った今でも、参加選手たちの周辺は、慌ただしい。トライアウト直後に新天地への入団が決まった選手、秋季キャンプ参加を許され、入団テストを受ける選手、そして、球団からのアプローチすらない選手……。明暗はっきりと、残酷なまでの現実が突き付けられている。
彼らはなぜ、球団から戦力外通告を受けたのか。アマ時代に抜群の成績を残したり、潜在能力の高さの片鱗を示したりして、プロ側に望まれて飛び込んだ世界なのに……。結果を出せなかった現在には、何か理由があるはずだ。そこで『週刊野球太郎』では、トライアウト参加選手の投球・打撃フォームを見て、プロで一花咲かせるためにどうしたらいいか、タイツ先生(「自然身体構造研究所」所長・吉澤雅之氏)に分析してもらった。
さらにタイツ先生直伝の「弱点克服トレーニング」も動画で掲載。プロ野球ファンはもちろん、選手たちにとっても必見の内容となっている。第1回目に指導を受けるのは、2011年ドラフト1位でプロ入りした北方悠誠(DeNA)。甲子園では150キロを超えるストレートで魅了し、ちょうど1年前は「未来のDeNAのストッパーか!?」と成長をみせていたはずの投手だったのだが……。逸材が再生するヒントを、早速、お伝えしよう。
★このフォームで130キロ超のストレートを投げることがスゴイ!
まず、始動時から問題があります。このフォームでは、足を上げる必要(意味)がありません。投手は打者方向の足を上げ、軸足1本でしっかりマウンドに立ち、前足を踏み出す体重移動で生まれる「位置エネルギー」を使って投球します。北方投手の場合、それが明確ではありません。位置エネルギーを始動させる準備ができていませんね。
それと一番の問題は、テークバックのトップの状態(体の後ろでボールを引き上げきったところ)。
肩関節と上腕二頭筋に力が入った状態で、トップの位置を作っていますが、これは本人も苦しいはずです。トップの状態から、一瞬、右ヒジの動きがストップする(コックしている)ことがわかるでしょう。これは、苦しいから一旦、抜いて(力を解放)、改めて腕を振っています。腕の正しい使い方である、内旋と外旋の使い方が狂っており、ヒジがロックされてスムーズに前にいかない状態で投げています。
足を上げる始動時から全体の連動性が狂った状態になっており、肩関節から先の筋肉だけを使って投げています。むしろ、このフォームで130キロ以上のストレートや、変化球を投げることに驚きを感じずにはいられません。ここが、北方投手の非凡な才能なのかもしれません。
★「意識して欲しいのは”でんでん太鼓”の動きだ!」
それでは、北方投手の投球フォームはどうすれば改善するでしょうか。
もともと、北方投手は開きが早いタイプで、グラブをはめる左腕と、右腕の使い方のバランスが悪かった。右腕の振りをやや遅らせることで微調整し、壁を作って調整する投げ方でした。
ただし、人間の片方の腕の重さは、5キロ前後あるといわれています。北方投手には、5キロもある物体を1試合で何百回も振る運動でもある、“投げる”動作の、正しい運動神経を取り戻してもらいましょう。腕全体を使うことができれば、多くの関節と筋肉が正しく使えるようになります。
人間は誰にでも、喉の下にポチッと出ている2つの骨があります。この胸鎖関節を含めた腕全体を使うことができれば、動きは変わるでしょう。投手なら、腕をムチのようにしならせて使えるようになるはずです。
さらに北方投手に意識してほしいのは、“でんでん太鼓”の動きです。右肩、左肩、右股関節、左股関節の四肢を、自然に、バランス良く使ってほしい。“でんでん太鼓”は、中心にある太鼓を回せば、ひもが振られます。筋肉で投げるのではなく、“でんでん太鼓”のように、身体の中心部をズラすことで、腕が自然に振られるようになり、下半身の使い方も変わってくるはず。そうすれば体に負担がかかりにくい投球フォームが身につき、自然と制球力もアップするでしょう。
佐賀・唐津商出身の北方は、地元九州の球団でもあるソフトバンクの秋季キャンプに、入団テストを兼ねて参加した。
この原稿執筆時点では、合否は不明だが、タイツ先生も指摘するように、こんな投球フォームでも130キロ以上のストレートを投げることができる、というある意味で非凡な才能を持っている。地元球団で是非とも、再起を図ってもらいたいと思うファンは多いはずだ。
※北方悠誠は、11月25日発売の『野球太郎No.013』でも取り上げています。このトライアウト後にインタビューし、トライアウトに臨んだ心境、今年1年間の変動、どうしてこうなってしまったのか……。そちらもお楽しみください。
■プロフィール
タイツ先生/1963年生まれ、栃木県出身。本名は吉澤雅之。小山高時代は広澤克実(元ヤクルトほか)の1学年下でプレーした。現在は「自然身体構造研究所」所長として、体の構造に基づいた動きの本質、効率的な力の伝え方を研究している。ツイッター:@taitsusensei では、野球、サッカー、バスケットボールなど国内外問わず、トッププロ選手たちの動きについて、つぶやいている。
■ライター・プロフィール
鈴木雷人(すずき・らいと)…会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。"ファン目線を大切に"をモットーに、プロアマ問わず野球を追いかけている。Twitterは@suzukiwrite