《セイバーメトリクスで読み解くCS》バレンティンのスタメンは吉と出るか、凶と出るか、注目を!
【この記事の読みどころ】
・攻めのヤクルトに守りの巨人が真っ向から挑む!
・ヤクルトの失点低下は投手力アップ以上に守備力アップが数字に表れていた!
・守備に不安を抱えるバレンティンのスタメン復帰は諸刃の剣
☆“巨人のディフェンス力”と“ヤクルトの得点力”の激突が基本的な構図
3位・阪神とのタイトな戦いを勝ち切った巨人が、ファイナルステージにコマを進めた。昨年は1位で出場しながら敗退した舞台で、今年はリーグ優勝したヤクルトを破る“下克上”で日本シリーズ出場を目指す。1stステージは投手力が強みの似たチームとの対戦だったが、次のステージでは得点力でリーグを制覇したタイプの異なるチームと戦うことになる。
基本的な構図は、阪神相手に好投した外国人先発投手を軸にした巨人のディフェンス力とヤクルトの得点力のマッチアップということになるのだろうが、ここでは少し視点を変え、ヤクルトが抱えるレギュラーシーズンとは少々異なる不確定要素に触れたい。
☆ブルペンの外国人3人衆など投手陣の活躍が目立ったが……
ここ数年のヤクルトといえば、バレンティンや畠山和洋を中心とした攻撃型チームで、昨年からはそこに山田哲人という新たな攻撃的選手が加わった。しかし、得点は多いがディフェンスに難を抱え、それ以上に失点がかさむチームだった。2013年は平均得点が3位で、失点率は最下位DeNAと僅差の5位、昨年は平均得点ではトップながら失点率では最下位とアンバランスな状態にあった。
今年は平均得点4.01でトップを維持する一方、失点率は3.66でリーグ3位へと改善させた。2位の中日(3.55)の背中も見えていた。
改善の理由としてまず挙げられるのは、投手陣の踏ん張りだろう。秋吉亮、ロマン、オンドルセク、バーネットらがフル回転した救援陣は3点を切る失点率を達成。先発投手はチームトップの168イニングに登板した小川泰弘、復調した石川雅規とヒジの手術から帰ってきた館山昌平などベテランも結果を残した。
失点が極度にかさんでいた過去2年と投手陣の投球内容を比較すると、四球は減少している。ただし、三振は増えてはおらず、投手力のみで失点を大きく減らしたというわけではなさそうだ。
☆バレンティンは諸刃の剣。守備への影響も?
注目したいのは本塁打以外の打球をアウトにした割合(DER: Defense Efficiency Ratio)の上昇だ。つまりヤクルトは打球が安打になりにくかった。そこには投手の打球を管理する技術と、野手の守備力の両方が関わっているとみられる。
セ・リーグ6球団の2013、2014、2015年のこの数字を並べてみると、ヤクルトは過去2年間でワーストと下から2番目を記録している。それが今年はリーグで3位、この3年でも上から6番目の数字を記録した。
こうした改善はなぜ起きたのか。関係していそうなのはFAで加入した大引啓次による遊撃の守備力アップ、そしてバレンティンの出場機会の減少か。
2013年は130試合、昨年は112試合に出場したバレンティンは今年15試合の出場に終わった。これによってヤクルトはもちろん得点力で大きな損失を出しているわけだが、山田のさらなる大ブレークによって表面化させずに済んだ。一方で代わって守った選手が守備でバレンティン以上の打球処理を見せ、DERの低下、打球を安打にさせずに済ませる働きをした可能性はある。
バレンティンのCSへの出場は、ヤクルトの得点力の爆発を生む可能性を秘めているが、今年実現した低失点に影響を与える可能性も同時に秘めていると言えるだろう。
文=秋山健一郎(あきやま・けんいちろう)
1978年生まれ、東京都出身。編集者。担当書籍に『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社プラスアルファ新書)、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクスリポート1〜3 』(デルタ、水曜社)など。