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Jリーガーの息子を持つ高木豊に訊く「プロ野球選手の育て方」4…息子を通じてサッカー界を体験した目から見た野球の指導方法とは

◆少年野球のシステムは幼少の子には合いにくい

 最終回は、高木豊さんが抱く野球界のジュニア選手育成論をテーマで締めたい。高木さんは3人の息子たちを介してサッカーに携わることで、現在の野球界について色々と感じるものが多々あったという。

 実は、長男・俊幸(浦和レッズ)と次男・善朗(清水エスパルス)の2人は、俊幸が小学1年生の頃に少年野球のチームに入れたことがある。当時は2人とも野球にも興味を持っていたのだが……。しばらくすると、俊幸がまた自分から「やっぱりサッカーをやりたい」と言ってきた。

「野球って、小さい子にとっては高度なんですよ。ボールひとつ握る作業でも大変で、ましてやコントロールよく投げるなんて本当に難しい。だから、一つのことができたら褒めることが大切です」


 2人に合わない部分もあった。入団した野球チームは上級生と下級生の2チームがあるだけ。小学1年生の俊幸と幼稚園児の善朗は、下級生チームでも下っ端になってしまい、楽しく活躍できる場がなかったのだ。一方、サッカーは学年ごとにチームがあり、2人とも突出していた。それは、うまくいく方に進むのが必然だろう。

「同じ年代でやるんだったら楽しかったと思うんですけどね」

 早くから活発だったことで、兄弟はサッカーを選択したというのは皮肉な話だ。

◆少年野球では大人の努力による工夫が必要

 高木さんは他にも野球選手の育成に必要なこととして、“大人の努力”を挙げた。

「野球の練習って、子どもの頃から基本ばかりやるでしょ? “基本を教えよう”とすると、動きが硬くなるんですよ。だから、遊びの中から基本を覚えられる練習を大人が考える努力が必要です」

 たとえば、ティーバッティングの場合、いつも同じところからボールを上げるとクセがついてしまう。それを直すのに、また同じところから投げて「そうじゃない」と言うのではなく、位置を変えて投げる。そうすると自然に直るときがあるという。そこで「できるじゃないか!」っと言ってあげる。そんな流れが大切なのだ。


 また、試合に勝つことを前提に、少年野球の頃から戦術を重視したプレーを強いることにも、高木さんは異を唱えた。

「少年野球でも2番打者がバントをするでしょ? バントするために野球をやっているのか、という話ですよ。勝てば楽しいのはわかる。でも、バントをした子は本当に楽しいですかね?」

 決してバントを否定しているのではない。選手が自然に考えてバントをする状況を作ることが重要なのだ。

「そのための方法として、打順を組んでグラウンドに送り出したら、監督はサインを出さずに試合を見ていることです。そして、最終回でスコアは0−0、ノーアウトランナー一塁。打席の子が自分からセーフティーバントをしてセカンドに送ったら、これは素晴らしいことですよ。試合後に『その方が確かに得点できる確率が上がるよな? 次の試合はそれを頭に入れてやろう』と言って、次もサインは出さない。強制ではない考える発想を養ってほしい」

 この繰り返しで、組織に必要な選手が育つと高木さんは見ている。

◆プロ球団は下部組織の設立を

 高木さんはプロ球団の下部組織の設立の必要性についても感じているという。それは、3人の息子たちが東京ヴェルディのジュニアユースで得たものが大きかったと実感したからだ。


「プロ野球も下のカテゴリーを設けて指導した方がいいと思います。甲子園を目指す人とプロを目指す人が両方いていいけど、金の卵であれば下部組織に入ってプロ一本に絞る。その方がスーパースターは生まれますよ」

 プロを目指す人だけ募ってセレクションを行い、12球団で戦いながら選手を育成するという考えだ。

「というのも、入団してきた選手に愕然とすることがあるんですよ。バッティングがすごいと聞いていて実際に見たら、確かに半速球は打つかもしれないけどプロのスピードにかかったらイチコロだぞ、ということがある。それなら、小学校4年生頃から下部組織で徹底的に基礎から教える方が、8〜10年後に結構な選手が出てきますよ。ドラフトで高いお金を使うよりも、いい仕組みだと思います」


◆今だったら野球選手も育てられる?

 インタビューの締めくくりとして、最後に今一度、高木さんに聞いた。プロ野球選手は育てられますか?

「『今ならできる』です。サッカー選手を育てた経験があるからこそ、だと思います。以前だったら、潰していたかもしれません」

 となれば、息子の代では果たせなかったが、いずれ生まれてくるであろう高木家の孫につい期待してしまう。末は野球かサッカーか? それはまだわからないが、もし、野球をすることになったら、お祖父ちゃんとなった高木さんの指導にぜひとも期待したいと思う。



 この記事のような、少し的外れのようなインタビュー、他の人では聞くに聞けないインタビューなど、まさに「オレに訊くな!!」ということをまとめて収録した『野球太郎No.014』が3月下旬に発売予定です。お楽しみにお待ちください!

■プロフィール
高木豊(たかぎ・ゆたか)/1958年10月22日生まれ、山口県出身。多々良学園高〜中央大〜横浜大洋ホエールズ・横浜ベイスターズ〜日本ハムファイターズ。中央大では東都大学リーグ通算115安打、ベストナインを4回獲得した。ドラフト3位で横浜大洋ホエールズに入団。「スーパーカートリオ」の1人として、1984年に盗塁王、その後、遊撃手と二塁手で3度ベストナインに輝くなど活躍した。1994年に現役を引退後は、アテネ五輪野球日本代表の守備走塁コーチなど指導者としても、野球解説者としても活躍した。ツイッターアカウント/@bentu2433

■ライター・プロフィール
キビタキビオ/1971年生まれ、東京都出身。野球のあらゆる数値を測りまくる「炎のストップウオッチャー」として活動中。元『野球小増』編集部員で取材経験も豊富。NHKのスポーツ番組に出演するなど、活躍の場を広げている。ツイッターアカウント/@kibitakibio

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