国際色を増すスポーツアイランド・沖縄〜懐かしい顔が集まる韓国球団キャンプ1―プレイヤー編〜
今や「スポーツアイランド」の名をほしいままにしている沖縄。実にNPBでは12球団中10球団がキャンプを行い、2月は島のあちこちでオープン戦、練習試合が行われている。近年のキャンプは実戦重視の傾向が強くなり、各球団は練習試合を多く組むようになっているが、この試合相手として韓国プロ野球のチームが重宝されている。
知る人ぞ知る、実に韓国プロ野球の6球団が沖縄でキャンプを張っているのだ。日韓16球団が集まる2月末のこの島を巡れば、国境という垣根が野球の世界ではどんどん低くなっていることを実感できる。
夏はビーチリゾートとして人気の沖縄本島中部の恩納村。海を見下ろす高台にある赤間ボールパークは、この10年、韓国の名門、サムスン・ライオンズが早春の折に拠点を置いている。地元にもすっかり受け入れられたこのチームの練習試合には、休日となると、数百人の観客が足を運ぶ。取材の日も、ユニフォーム姿の地元中学生が多数、訪れていた。韓国テレビ局の取材を受け、緊張気味の中学生にしつこいほど浴びせられていたのが、韓国球界のレジェンド、李承?(元巨人ほか)に関する質問。空気を読んだ賢い中学生は、「サムスン・ライオンズは小学生の頃から恩納にキャンプに来てくれているので、よく知っています。李承?選手が日本で大活躍したこともよく知ってます」と、「神対応」。
その英雄、李承?だが、38歳になった昨シーズンもチームの二冠王になるなど、母国ではいまだ健在だ。この日も、スタメン出場し、初回いきなり、きれいなセンター前ヒットを放っていた。今年も主砲として5連覇を目指すチームを引っ張ることだろう。
韓国プロ野球も年々レベルアップし、メジャーリーガーを引っ張ってくるようになった。その中でも、外国人選手獲得における彼らの狙い目は、日本野球を経験した選手だ。この日のハンファ・イーグルス戦の先発投手も「メジャー経験のある日本野球経験者」、アルフレッド・フィガロ(元オリックス)だった。その力のあるストレートは、オリックスでも期待されていたのだが、半ば強引に契約を破棄し、メジャーに戻ったのは2年前のこと。しかし、昨シーズンの大半をマイナーで送ると、活躍の場を再びアジアに求めた。
「どうしてアジアに戻ってきたかったって? ギャラが良かったんだ」と屈託なく話すドミニカンは、この日が実戦初登板。「まだ日本と韓国の野球の違いもわからない」という手探りの段階だが、「これまで世界のいろんなところでプレーしてきたから大丈夫」と、アジア第2のパワーハウスでの活躍を誓ってくれた。
チームの期待も高いようで、試合前のブルペンの周りには首脳陣と主力選手が勢ぞろいしていた。まだ春先とあって、最速160キロともいわれているストレートのスピードはいまひとつだったが、鋭く曲がる変化球が低めに決まると一堂はため息を漏らしていた。
この変化球は早速マウンド上でうなりを上げた。初回2死で、ハンファの3番打者を迎える。追い込まれた後、外角低めに吸い込まれていったスライダーを見送ると、審判のコールに唖然としながら打席をあとにした。彼がそんなキレのある変化球をいまだかつて目にしたことがないことは、その表情に現れていた。
上々の立ち上がりを見せたフィガロに立ち塞がったのが、韓国を代表するスラッガー、金泰均(元ロッテ)だった。2回、先頭打者として打席に立った金は、フィガロの速球を簡単にレフトにはじき返した。
ロッテ時代より幾分ふっくらし、得意なはずの一塁守備でもいまひとつ動きが鈍かったが、母国の水が合うのか、韓国復帰後は3年連続で3割をマークしている。
ハンファに今年メジャーから移籍したのが、元DeNAのナイジャー・モーガンだ。日本でも人気を博した陽気なキャラは相変わらずで、試合前のベンチでもおどけた表情を見せてくれた。この日は、1番打者として出場したものの、フィガロの前に2打席ともセカンドゴロと「元メジャー対決」は完敗に終わった。
それにしても、バッターボックスでは絶えず動き、しきりに審判やキャッチャーに声をかけるなど、落ち着きのないことこの上ない。第3打席では、背中にデッドボールを受け、激昂。放送禁止用語を連発しながらマウンドをにらみつけ、これを審判が慌てて制止するなど、相変わらずの「問題児」ぶりを発揮していたが、途中交代後になると、フィールドから帰ってくる選手とハイタッチを交わすなど、すでにベンチではムードメーカーになっていた。
この日は、登板がなかったが、ヤクルトで128セーブを記録した林昌勇もこの赤間で汗を流していた。ヤクルト退団後は長年の夢であったメジャーに挑戦すべく、シカゴ・カブスに入団したが、ここでは活躍の場がなく、昨年から古巣・サムスンに復帰し、31セーブを挙げて復活している。女性ファンを虜にした甘いマスクは、39歳なった今でも日本人女性ファンを魅了している。「イム様」詣のためだけにはるばる東京から来たという女性たちは、ヤクルトのキャンプ地である浦添には全く興味がないとサブグラウンドでダッシュする林をうっとり眺めていた。
(次回に続く)
■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)