『最後の夏、一度きりの青春の舞台』を、何十回も繰り返す「高校野球監督」という深き業
2014/8/8
96回目を迎える夏の甲子園がいよいよ開幕! 緒戦から日本文理(新潟)vs大分(大分)、明徳義塾(高知)vs智辯学園(奈良)、東海大相模(神奈川)vs盛岡大付(岩手)、沖縄尚学(沖縄)vs作新学院(栃木)など好カードが目白押しだが、今夏は「監督視点」で甲子園を眺めてみるのはいかがだろうか。
現在、書店に並んでいる『野球太郎』最新号は、ズバリ「高校野球監督名鑑号」。「高校野球監督」という業の深い生き様を貫く男たちのドラマで濃密にむせ返っているわけだが、巻頭の「高校野球監督名鑑」と「スペシャルインタビュー」で取り上げた54名の現役監督のうち、並みいるライバルを競り落として「夏の扉」をこじ開けたのは以下の18名だ。
仲井宗基(八戸学院光星/青森)
斎藤智也(聖光学院/福島)
小針崇宏(作新学院/栃木)
本多利治(春日部共栄/埼玉)
門馬敬治(東海大相模/神奈川)
村中秀人(東海大甲府/山梨)
大井道夫(日本文理/新潟)
阪口慶三(大垣日大/岐阜)
多賀章仁(近江/滋賀)
原田英彦(龍谷大平安/京都)
西谷浩一(大阪桐蔭/大阪)
江浦滋泰(関西/岡山)
中井哲之(広陵/広島)
森脇稔(鳴門/徳島)
馬淵史郎(明徳義塾/高知)
若生正廣(九州国際大付/福岡)
百?敏克(佐賀北/佐賀)
比嘉公也(沖縄尚学/沖縄)
いざ戦いに挑む18名の監督たち。その中からグッとくる言葉や意外なエピソード、強さの秘密などを少しだけ、本誌から抜粋してみよう。
●西谷浩一(大阪桐蔭)
甲子園での勝率もプロ輩出数も圧倒的。「平成の虎の穴」とも呼ばれる21世紀最強チームを作り上げた西谷監督だが、大きなスケール感としぶとさを併せ持つ西谷野球のバックボーンには、母校・報徳学園で学んだ「粘っこく負けない野球」と、関西大の主将として大所帯をまとめた経験が流れているのだという。
●中井哲之(広陵)
「エラーをしても怒らないが、男として間違ったことをしたら許さない」
「今の自分を支えている幸せはお金で買えないものばかりだ」……。
筋を曲げない気概の男・中井監督は広陵野球部を「家族」と呼ぶ。中井監督のもとからは、卒業後も活躍する選手がたくさん巣立っているが、その理由は「技術・育成論」ではなく「家族論」にあったのだ。広陵ファミリーの「人として正しくあれ」という信念は、今夏の聖地で如何なる輝きを見せるのだろうか。
●原田英彦(龍谷大平安)
誰にも負けない「平安愛」で低迷する母校を立て直し、今春のセンバツでは見事に全国制覇。名門完全復活を成し遂げてのインタビューで男泣きする原田監督の姿は、ただただアツかった。そんな熱血漢・原田監督だが、社会人時代には祇園界隈のディスコで「九条のジョン(・トラボルタ)」として鳴らしたという……。白いスーツにエナメル靴でキメて、ミラーボールの下でたぐいまれな身体能力を発揮していたのだ。そして、再び野球に執心するきっかけのひとつとしてあげたのは、「Y.M.O.のテクノブームに馴染めなかったから」。確かに、原田監督にY.M.O.は似合わない……。
これらのエピソードはほんのサワリ。まだまだ「高校野球監督号」には、ひと筋縄でいかない監督たちのドラマが満載だ。
「最後の夏」という1度きりの舞台に「若き衝動=青春」をスパークさせる球児たち。そして「最後であるはずの夏」を何十回も過ごし、繰り返す業の深さから、やがて味わい深い「人生のブルース」を鳴らしだす監督たち。錯綜する両者の物語性を俯瞰して眺めていると、高校野球の全体像を大河ドラマのようにもっと楽しむことができる。社会にまみれ、人生の悲喜交々を味わってきた大人なら、なおさら「最後の夏」の情感が染みいることだろう。
高校野球は青春のリアルであり幻。少年と老年の間に流れる経年の時間軸さえもゆらぐファンタジー。そして、酸いも甘いも噛み砕かれた社会の縮図でもある。だからこそ「高校野球監督」という生業に人生を捧げた男たちは、物語の舞台に欠かせない登場人物として光を放ち始めるのだ。
■ライター・プロフィール
山本貴政(やまもと・たかまさ)/1972年3月2日生まれ。音楽、出版、カルチャー、ファッション、野球関連の執筆・編集・企画・ディレクションを幅広く手掛けている。また音楽レーベル「Coa Records」のディレクターとしても60タイトルほど制作。最近編集を手掛けた書籍は『ブルース・スプリングスティーン アメリカの夢と失望を照らし続けた男』、編集・執筆を手掛けたフリーペーパーは『Shibuya CLUB QUATTRO 25th Anniversary』、ディレクションを手掛けた展示会は『Music Jacket Gallery』(@新宿高島屋)など。