第17回『おれはキャプテン』『ドリームス』『甲子園へ行こう』より
「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!
★球言1
《意味》
球種が限られている場合でも、バッテリー間で投げるタイミングを工夫していけば、ピッチングが単調にならず、相手打線のリズムを崩していくことができる。
《寸評》
意図的に投球のタイミングを調節するので、塁上に走者がいない状況でも、投手はセットポジションから投げること。球種が少なくても、サイン交換に時間をかけられるというのも利点の1つ。投手がマウンドで投げ急がずに済む。
《作品》
『おれはキャプテン』(コージィ城倉/講談社)第7巻より
《解説》
スポーツジャーナリスト志望のカズマサ(=霧隠主将)を新キャプテンに任命した狛駒中は、新人大会に出場。第9ブロックの決勝戦まで進出する。
対戦相手は、優勝候補筆頭の千船中。スコアは二回終了時点で6対10。試合は大味な展開となっていた。
三回裏、千船中の攻撃。捕手のカズマサは、投手の那巳川にセットポジションから全球スライダーの投球を指示。相手の打ち疲れを狙う作戦を選ぶ。
「でも『サイン』は出す(中略)投げる球種は一個しか無いんだ せめて投球間隔を変えて変化をつける!」
カズマサからのサインで、セットポジションの秒数を数える那巳川。初球が9秒。2球目が14秒。3球目は、意表を突いて0秒。1球ごとにテンポが変わる投球に、千船中の七番・荒谷はタイミングを外され、一塁へファールフライを打ち上げてしまう。
リズムを崩した千船中は3回以降、思ったように点が取れなくなっていくのだった。
★球言2
《意味》
高めのボールの場合、内角か外角かで守備側はある程度、打球の方向を予想できる。しかし低めのボールの場合は、打者のバットが下向きになるので、ボールがどこへ飛ぶかわからない。
《寸評》
センター返しを考えるとわかりやすい。高めのボールは、バットとの当たり方によってゴロになったり、フライになったりする。これが低めになると、バットがタテになるので、ボールの当たり方次第で左右に広がって飛ぶ、という考え方。
《作品》
『ドリームス』(七三太朗、川三番地/講談社)第27巻より
《解説》
悪童・久里武志が率いる夢の島高は、夏の甲子園への切符を手に入れる。
一回戦の相手は、春夏連覇を狙う神戸翼成高。エース・生田庸兵の豪腕に加え、投球コースで変幻自在に動く守備陣形に、夢の島打線は4回まで2点に抑え込まれていた。
5回表、夢の島高は七番・大村からの攻撃。ベンチに座る久里が、ナインに檄を飛ばす。
「おめえら よーく野手の動きを見とけよ(中略)セオリー野球がいかにモロいか……(中略)俺の非常識で あいつらボロボロにしちゃる!!」
打席の大村へ「低目を打て」と指示を出す久里。外角寄りのボールに対し、右方向への打球に備える神戸翼成高。しかし大村が放った打球は、なぜか真逆の三遊間へ。不思議がる夢の島高ナインに、久里が解説する。
「低目を狙って バットを下向きに打てば インコースだろうが アウトコースだろうが 打球は右へも 左へも飛ぶことになる!!(中略)予測不可能ってやつだ」
★球言3
《意味》
まったく同じ身体を持った投手はいないため、理想の投球フォームは千差万別だが、始動のときに右足の親指の延長線上に頭を乗せるという姿勢は、絶対に外してはならない重要なポイントである。
《寸評》
オーバースローでもアンダースローでも、サイドスローでもスリークオーターでも、踏み込んだ足で真っ直ぐに立つという姿勢は確かに同じ。「始動でしっかりと立つ」ためには、「右足の親指の付け根に体重をかけることを意識」するのだと作中で解説されている。
《作品》
『甲子園へ行こう』(三田紀房/講談社)第4巻より
《解説》
鎌倉西高のエース・四ノ宮純は、甲子園出場へ向けてのレベルアップを図るため、ある人物に教えを乞うていた。
元プロ野球選手の若村暁之。彼は、鎌倉西高の部長・貞兼利次がかつて指導した教え子だった。
若村の現職は、関東地区を担当するプロ野球のスカウト。当然、アマチュアの指導は禁止されている。が、匿名でのメール交換という抜け道を使うことで、四ノ宮は若村と連絡を取ることを可能にする。
若村はメールで、「始動でしっかりと立つ」ことの重要性を四ノ宮に説く。体格、筋力、運動能力が同じ投手がいない以上、野球の投球動作に「理想のフォームというものはない」。しかし、絶対に外せない点が1つだけある。それが「始動でしっかりと立つ」ことなのだ、と。
「わかりやすくいえば、振りかぶった後、踏み出した右足の親指の延長線上に頭をのせるということだ」
早速、四ノ宮は夜の海でフォームの改造に着手し始める。
文=
ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に
『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に
『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。