長嶋茂雄スペシャル■第2回『王者長島のすべて』
■「王者長島のすべて」
さて、
前回までは長嶋さんが巨人軍に入団した直後、野球雑誌界にどんな影響を与えたのかをお伝えして参りました。あの「週刊ベースボール」を週刊化させたのも長島さん。日本の歴史のなかで、戦後の高度成長期を牽引した昭和のヒーローは長島さんであり、雑誌を中心とした野球メディアもまた、長嶋さんにグイグイと引っ張られて数々の野球雑誌が生まれた…。
と真面目な話は置いといて、読者の皆様は「長嶋」と「長島」の表記に違いに戸惑いませんか?この項では当時の雑誌名のままに書き分けていきますが、これには諸説あり、戸籍上は「長島」で巨人の登録名は「長嶋」であるという話や、立教大学野球部史には「長島」とあるが卒業名簿には「長嶋」とある…と、どうでも良いようでいて、どうでも良くないような、これもいわゆる長嶋さんらしさを感じさせるエピソードでしょう。
今週もそんな不思議な長嶋さんの魅力がギュッと凝縮された一冊を紹介します。
タイトルはズバリ「王者長島のすべて」。デビューしてから3年後の昭和36年に発売されたこの本は、まさに人気、実力ともに「絶頂期」を迎えた長嶋さんの魅力の全てをこれでもか! と余すところなく表現しています。
現代的にいうと「一冊まるごと長嶋茂雄」や「月刊長嶋茂雄」といったところでしょうか。長嶋さんの幼少時の写真から立教大学在籍時の写真まで、エピソードを交えて紹介するコーナーや、当時の野球解説者が「打撃」「守備」「走塁」に分けて長嶋さんのプレーを解説するコーナーなど盛りだくさんの内容です。
なんといってもこの本の一番の目玉は長嶋さんと当時の一流芸能人との交遊録を紹介したコーナー。特にあの
石原裕次郎が長嶋さんへの想いをアツく語っている「シゲオとぼく」は必見の1ページ。石原裕次郎といえば説明不要の「昭和の大スター」ですが、二人が手の大きさを比べながら和やかに微笑む写真は「古き良き昭和」そのもの。人気者の二人は雑誌やテレビの取材で一緒になることが多く、再会を重ねる毎に親睦を深めていったそうです。昭和37年には二人でアメリカ旅行に出発。フロリダで長嶋さんがプールに入った事が巨人軍にバレて付き添いの
石原まき子夫人が球団から怒られたり、ニューヨークの五番街の高級帽子店では裕次郎が長嶋に帽子をすすめると「ボクはヘルメットが一番似合うから」とよくわからない理由で断ったり…。若き二人のスターの珍道中はハチャメチャだったようです。
この交遊録のコーナーでは他にも宝塚歌劇団の元星組男役トップスターだった
寿美花代、日本を代表する大女優の
司葉子らも長嶋さんについての想いを綴っています。数多くの芸能界のスターたちに認められていた長嶋さんこそ、本当の野球界のスターというべき存在でした。
石原裕次郎は「川上、稲尾、金田…いろいろいるけどナ、やはり長島の前に長島なし、長島の後に長島なしや」とコメントしていますが、これこそ長島さんの魅力を最もわかりやすく表現している言葉でしょう。
■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリングと、まだまだ謎は多い。
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他ともに認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは
@suzukiwrite
■お店紹介
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