第1回 高井雄平(ヤクルト)〜『野球太郎No.003 2013春号』の取材より
今回からスタートする不定期連載「野球太郎取材こぼれ話」。最初の回は、現在発売中の『野球太郎 No.003 2013春号』の記事から、全体の構成上どうしても入れることができず、やむなく外したヤクルトの高井雄平投手の取材のこぼれ話を紹介します。中には、本編より面白いかも、というお宝コメントも?
今まで対戦した中で一番すごかった選手は?
まず、ピッチャー時代に対戦したときのバッターについて訊いた。
「いっぱいいましたけどね…。日本人でですか?」と生真面目に聞き返したあとに出てきた選手の名前はペタジーニ(当時巨人)だった。
ペタジーニは、高井が入団する前年の2002年までヤクルトで4年間プレーし、03年からは巨人に移籍している。03年は打率.323、34本塁打、81打点を挙げ、04年も打率.290、29本塁打、84打点。翌年はメジャーへ逆輸入的に移籍しており、高井と対戦したのは入団1〜2年目のわずか2年間に過ぎないが、それだけに鮮烈な印象であったことが伺える。
「びっくりしましたね。なんか、バットが全然出てこないんですよ。それで『ああ、見逃した』と思ったら突然バットが出てライトに持っていくんです。あんだけ待たれて、ボールを見られて、甘い球がくるとパチーンとやられる感覚と言いますか、あれはいやでしたね。他にもすごい人はいたけどあんな選手はいなかったです。しかも一応、左対左なんですけど(笑)。でも、怖かったです」
それは、今、打者として参考になるのではないか? そう思って聞いてみたのだが、
「いや、あれはレベルが高過ぎでしょう」ということだった。
次に、野手になってから対戦した中ですごかったピッチャーは? と訊くと、またしても出てきた選手は外国人選手だった。
「巨人のホールトン。すごいっす」
イメージ的にはややインステップ気味から外国人特有の動くボールやカーブなども使って打ち取るという印象があったが、高井は
「いや、インステップっていう感覚はないですけど、上からくる感じです」とこちらの感覚を修正したあと、今までちょっと聞いたことがなかった興味深い感覚について話してくれた。
「140キロくらいしか出ないんですけど、バットを出して『とらえた』と思ったらグリップに近いところに当たるんですよ。手に当たりそうになったこともあります。僕、10数回対戦してゼロ(安打)なんですけど、バットも3、4本折られました」
それはやはり動くボールなのか?
「いや〜、動いていないんですよね。きれい(な回転)で…。でも、全然タイミングが合わないんです」
なんだそりゃあ? と、面食らっていると、隣にいた持木編集長から「それは、上背の角度ということでもなく?」という質問がたまらず飛んだ。しかし、高井の返答は、野手経験の乏しい選手ならではの意外なものだった。
「いや、正直…。わからないですよ! いまだに」
もちろん、対戦の中で無策だったわけではない。
「(対戦前に)最初に見た前ときは『これは打てる』と思っていたんですけど、実際に対戦したらそんな結果だったので、それ以降はタイミングのとり方をいくつか練って臨んだんですよ。最初は上背かな? と思って、目線を下げてみたけどダメで。あと、よく“出される”って言うじゃないですか?」
思ったよりボールがこなかったり、チェンジアップ等を駆使する投手の場合、投手方向に前のめりになるように崩されるときのことだろうと、理解して頷く。
「宮本さんには『出されるから残していけ』と言われて少し待ち気味にしたんですけど、ダメでしたね」
現役のプロ選手でもこういうことがあるのだな、と思うと同時に、現役だからこそ常にこういうことが起こりえるわけで、毎年向き合って克服していかねばならないのだな、とも感じさせた。
それでも、プロで生き残っていくためには打たなくてはならない。
「今年は何としても攻略しますよ」
そう言った高井の顔から笑顔が消えていたことからも、十分自覚しているようだった。ぜひとも、ホールトン攻略を達成し、いつかどのようにして解決したのかを聞きたいと思う。
<おわり>
■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。
Twitterアカウント@kibitakibio