似たタイプの対戦となる日本シリーズをセイバーメトリクスで分析! ロースコアの戦いで勝利をもぎ取れ!
今年のポストシーズンはセイバーメトリクスに注目! OPSやQSと、一般の野球ファンにも浸透しつつある、データを統計学的見地から客観的に選手の評価や戦略を考える分析手法を用いて、日本シリーズの「傾向と対策」を解説していく。
◯阪神タイガース
圧倒的なディフェンス力。四球少ない投手陣
阪神は6試合を5勝1分と負けなしで戦い抜き、日本シリーズ出場権を得た。安定した戦いを支えたのは、失点を9に留めたディフェンス面なのは間違いない。1試合当たりでは1.5点、9イニング当たりだと1.42点に抑えており、シーズン中の1/3程度の数字で驚異的だ。
この失点減に投手陣の貢献として、まず数字で見えるのは四球の割合の低さで、57イニング・対戦打者224人に対し10個。9イニング換算だと約1.6個で、これもシーズン中の半分強という低い数字に抑えている。クライマックスシリーズ(以下CS)ファイナルステージで戦った巨人が9イニング当たり4.0個の四球を出していたことを考えると、この点だけでもかなりのアドバンテージがあったと言える。
阪神の投手陣は三振奪取力も強みだが、こちらも同条件で47個。9イニング換算で約7.4個とよい数字を出している(リーグ平均は6.9個)。
攻撃に目を移すと、得点は22で1試合当たり3.7点。9イニング当たりだと3.6点。これは広島、巨人という上位チームのエースを含む投手との対戦だったことを差し引いても、よい数字とは言い難い。ファイナルステージはコンスタントに得点し、試合展開を有利にしていたが、失速したシーズン終盤、9月〜10月(1試合平均得点3.4点)と比べ、得点力が劇的に上昇していたわけではない。
CS通算の出塁率は.338、ISOは.104で、シーズン通算と近いバランスになっている。長打力については、6試合のうち4試合が本塁打の出やすい東京ドームで行われ、5本中4本の本塁打が東京ドームで出ている。本塁打の出にくい甲子園とヤフオクドームで行われる日本シリーズでは、現在の阪神の長打力が得点に直結しない試合が、もう少し出てくる可能性もある。得点力については、ファイナルステージの印象から、やや抑えめで見ておいたほうがよいかもしれない。
◯福岡ソフトバンクホークス
ずば抜けた投手の三振奪取力が失点減につながるか?
ファイナルステージ5試合で17得点、1試合当たりでは3.4点、9イニング当たりだと3.37点。これはレギュラーシーズン終盤に失速した9月〜10月の24試合の1試合平均得点の3.33点とあまり変わらず、得点力は復調していないようだ。1勝のアドバンテージを得ながら、日本シリーズ出場決定が最終戦までもつれたのは、得点力の低さが大きく影響した。
出塁率は.335、ISOは.087とシーズンの成績を下回った。四球は取れていたが、出塁率はシーズンより悪かった。それはヒットが思うように出なかったことが理由だ。長打力はシーズン通して低めだったが、ファイナルステージでもヒット47本のうち長打は二塁打が6本、本塁打が3本と目に見えて物足りなかった。
第3戦の先発・吉川光夫、第5戦の先発・大谷翔平と日本ハムのリリーフ陣に対し、計26三振を喫するなど、相手投手のずば抜けた好投が影響した数字ではあるが、好調とは言えない攻撃関連の数字が出ている。
失点は27点。1試合平均で5.4点で、9イニング当たり5.2点。12失点した第3戦を除けば失点の1試合平均3.8点にまで下がるが、それでも低い数字ではない。
それでも、9イニング換算の三振は先発が7.8個、リリーフが12.8個、投手陣全体だと約10.0個とかなりの割合だった。シーズンのパ・リーグ平均が約7個なので、ソフトバンク投手陣は三振をかなり奪っていた。
一方で9イニング換算の四球は投手陣全体で3.6個。ソフトバンクのシーズン通算は3.24個、パ・リーグ平均が3.26個なので、四球は少し多かった。
通常、このバランスであれば、ここまで失点しないが、7本打たれた本塁打などが影響し失点が大きく膨らんでいる。日本ハムほどの長打力を持たない阪神に対しては、失点を低く抑えられる可能性はある。
(ソフトバンクの成績は第5戦までのもの)
◯日本シリーズの展望
投手力が自慢の両チームの戦いは接戦必至!
両チームの強みは、阪神は先発投手の安定感。ソフトバンクはCSでは発揮できなかったがリリーフ陣の地力か。その上で甲子園とヤフオクドーム、どちらも広い球場を使った日本シリーズとなるため、少ない得点で試合が決まる可能性が高そうだ。
そうした展開を予想すると、阪神の投手陣の四球の少なさはCS時以上に大きな武器になると思われる。阪神がその差を生かし、四球を得点につなげるような攻撃ができれば、多少有利になるかもしれない。
1点を争う接戦がどちらに転ぶかをデータから読むのは難しいが、スリリングな日本シリーズとなりそうだ。
■ライタープロフィール
秋山健一郎(あきやま・けんいちろう)/1978年生まれ、東京都出身。編集者。担当書籍に『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社プラスアルファ新書)、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクスリポート1〜3 』(デルタ、水曜社)など。