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プロの世界って、努力で差がつくとは思わないんですよ。みんな当たり前のように努力してますから。

◆シフトに屈しない赤星流思考法

――赤星さんはプロ入り後も、ホームランを100パーセント捨てたバッティングに徹し続けたのですか?

赤星 プロ入り後も100パーセント捨ててました。ホームランを狙ったことは練習も含めてただの一度もない。練習の時からピッチャーの足下や逆方向へ強い打球を打つことを常に意識していました。



――赤星さんの打球がセンターからレフト方向が多いということで相手チームが「赤星シフト」のようなものを敷いてくることもありましたよね。

赤星 シフトは結構、敷かれましたね。特に中日のシフトは極端だった。左中間にセンター、右中間にライト、レフトはほぼレフト線の上にいる感じでしたからね。ショートも三遊間にかなり寄ってましたし。

――あいているライト方向へ引っ張りたくなるシフトでしたよね。

赤星 引っ張ったら三塁打やランニングホームランになるんじゃないかと思いがちですよね。でも、ぼくはその考え方は相手の術中にはまることになると思い、一度も引っ張ろうとは思わなかったです。むしろ、逆方向に打ち返して、シフトを敷いてる野手が捕れないような当たりを打つことに執念を燃やしました。相手からしたらショックじゃないですか。「寄ってるのになんでヒットになるんだよ!」と。

――たしかにショックは大きそうですね。でも逆方向に打たれたくない相手バッテリーはインコース中心の配球をしてくることが多くなかったですか?

赤星 そう。配球はインコースが中心でした。でも、そのインコースは引っ張るのではなく、逆方向に打ち返そうと。その意識をとにかく徹底しようと。

――インコースを逆方向に強く打ち返す練習をした。

赤星 そうなんです。でも、いざ取り組んでみたら、インコースのボールってむしろ逆方向に強い打球が飛ばしやすいことに気づいたんですよ。体全体を使って振れるので。外角のボールは腕が伸びきった状態で当てることになるので、流したとしても打球が弱いんです。

――なるほど。

赤星 狭くなった三遊間を抜いたり、前方に守ってるレフトの前に落としたりすることが快感に変わってきてね。そのうち、内角のボールでもしっかりと体を使って打ったら左中間に長打なんかも出るようになって。そうすると、相手の守備位置も次第に元に戻っていくんですよ。

――相手の術中にはまることなく、逆に相手を術中にはめてやった感じですね。

赤星 ぼくは「はめてやろう」と最初から思ってました。相手のシフトが緩んでいくのを見ながら「勝った」と思いましたね。


◆小柄な俊足選手にありがちな落とし穴にはまるな

――赤星さんのような小柄で俊足タイプはちょこんと当てて内野安打を狙ったりする方向に走ってしまいがちだが、赤星さんはそっちの方向にはいかなかった。

赤星 たしかに小柄で俊足なタイプは指導者からも「三遊間に転がせ!」といった指示を受けやすいですよね。でも、弱い打球しか転がせないバッターは上のレベルになればなるほど、通用しなくなっていくと思うんです。プロのディフェンスレベルになると、ちょっとくらい足が速くても、当てて転がしたくらいじゃみんなアウトになっちゃいますもん。

――弱い打球しか打てないとなれば相手も守備位置が浅くなるから余計に内野安打が生まれにくくなる。

赤星 そうなんですよ。プロでも、小柄で足が速いのになかなか成功できない選手はそういう傾向が強いですよね。やはり、この選手は小さくてもしっかり強い打球を打ってくると相手に思わせないと。

――なるほど。

赤星 体が小さい選手は、大きな選手に比べたらパワーという点では不利な面が否めない。だから大きな選手と同じような打球を打とうと思えば、人一倍体を上手に、しっかり使わないとダメなんです。特に左バッターは振る方向に走るので体が一塁側に流れやすい。意識としては打ってから三塁側に一歩踏み出すくらいの気持ちで打たないと強い打球はなかなか打てないですから。

―― 一塁へ速く走りたい気持ちをぐっとこらえて強く振ることが大事。

赤星 それに、これくらいしっかり振ると、打ち損じた時の内野安打って生まれやすかったりするんですよ。やはり、しっかり振ると相手の野手も一歩目のスタートが切りにくい。チェンジアップのような効果が生まれるので、案外、内野安打が生まれるんです。

――もしも、赤星さんが強くバットを振ることを意識せず、ちょこんと当てにいくようなバッティングに終始していたら2割9分5厘という高い通算打率は残っていない感覚がありますか?

赤星 間違いなく残っていないし、レギュラーだって獲れてないですよ。それはもうはっきりといえますね。


◆明暗をわけるのは「努力の仕方」

赤星 でも、体が小さいからといって、僕のように完全にホームランを捨てたバッティングをする必要もないんですよ。体が小さくてもパワーがある選手だっていますから。そういう選手は小さいから、といってそのパワーを捨てるのではなく、むしろ持ち味を貫き通す発想に徹したほうがいい結果が生まれる可能性だってある。今年、覚醒したヤクルトの山田哲人選手なんかそういうタイプですよ。彼もそんなに大きくないし、どちらかといえばホームランを捨てる方向にいってもおかしくなかったけど、そうはしなかった。元ヤクルトの若松勉さん、元阪急の福本豊さん、といった昔の小兵選手たちも、ホームランをしっかり打ちながら打率も残してましたからね。

――阪神の後輩である上本博紀選手もホームランを捨てないほうがいいタイプじゃないですか?

赤星 そうですね。彼も小力がありますからね。持ち味である長打力を捨てる完全に捨てないほうが絶対にいいと思います。一方では、高校時代に60本以上ホームランを打ちながら、スラッガーとしての部分を完全に捨て去り、2番というつなぎ役に徹しきることで、レギュラーの座をつかんだソフトバンクの今宮健太選手みたいなタイプもいる。彼はチームの中における自分の役割をしっかりとわかっていますよね。

――これは仮定の話になりますが、もしも赤星さんがさほど足の速くない小柄なタイプの選手だったら、野球人生はどう変わっていたと思われますか?

赤星 そりゃあもう、野球選手になれていないでしょうね……(苦笑)。いや、でもそれならそれで、逆の方向に割り切って、パワーをとことんつける方向に走った可能性はあるかな。西武の森友哉選手なんかも身長は170センチあるかないかだと思いますけど、あれだけのパワーヒッターなわけじゃないですか? 元南海でホームラン王を何度も獲得した門田博光さんも170センチほどしかなかったそうですし。自分も発想を変えてそういうタイプの打者を目指していた気がします。

――なるほど……。「割り切った発想」が小柄な選手には特に必要なのかもしれませんね。

赤星 今は小柄なプロゴルファーでも、トレーニングや道具を工夫することで大きな選手と肩を並べるような飛距離を出す人も大勢いるわけじゃないですか? 大きな選手との差を埋める方法は昔よりもあると思いますし、考え方、取り組み方ひとつで成果は大きく変わると思いますね。

――なるほど。

赤星 ぼくはプロの世界って、努力で差がつくとは思わないんですよ。プロに入ってくるような選手なら、みんな当たり前のように努力してますから。

 じゃあどこで差がつくのかというとやっぱり「努力の仕方」だと思うんです。言い換えれば「自分の正しい生かし方をいかにきちんと自分の頭で考えられるか」。正しく努力ができる選手になれれば、体が小さいことなんて、たいしたハンデじゃない。

 プロの世界で自分をどう生かせばいいのか、なにをチームに求められているのか。そのことを理解することが、プロの世界を生き抜くための最大のポイントだとぼくは思っています。


(終わり)

赤星憲広(あかほし・のりひろ)


1976(昭和51)年4月10日生まれ、愛知県刈谷市出身。大府高〜亜細亜大〜JR東日本〜阪神タイガース。大府高では内野手として活躍。1993年、1994年と2年連続でセンバツに出場する。亜細亜大2年春のシーズンから外野手に転向。JR東日本に入社し、2000年のシドニー五輪代表に選ばれる。同年のドラフト会議で阪神から4位指名を受け、入団した。1年目に盗塁王(128試合に出場し39盗塁)と新人王を獲得。この2つを同時に獲得する選手は史上初だった。その後、2000年代阪神黄金期の主軸選手として2003年、2005年のリーグ優勝に大きく貢献。しかし、ガッツ溢れるプレーの代償で、ケガに悩まされることも多かった。2009年9月の横浜戦でダイビングキャッチを試みた際に、その場で動けなくなるほどの重症(中心性脊髄損傷)を負う。医師から引退勧告を受け、現役復帰の可能性を見出そうとするも、リスクばかりが大きかったため、引退を決意した。その後、解説者として、新聞にテレビに幅広く活躍を見せる。

また、2004年の球界再編問題を機に、中学生を対象とした野球チーム「レッドスターベースボールクラブ」を設立した。野球がうまくなるような手厚い指導をしていくことはもちろん、子どもたちに野球が出来る環境、野球を通した人間的成長、そして子どもたちに夢を与えていく、といったことを目指している。

この「レッドスターベースボールクラブ」では、例年1月中旬に新入団選手のトライアウトを行っている。11月初旬からトライアウトの募集を開始する予定。

応募資格は
・活動拠点(大阪市内より1時間圏内)の活動に週1日以上参加可能であること
・平成26年4月に中学生1年生になる健全な男子

興味のある方は、ホームページ(http://www.redstar53.com/rsbbc/)をご覧ください。

各種お問い合わせ先は、

特定非営利活動法人 レッドスターベースボールクラブ事務局(株式会社オフィスS.I.C)
担当:泊、杉山

〒659-0065 芦屋市公光町10-10 B.Block N-3
TEL 0797-23-7177(平日10:00〜18:00)
FAX 0797-23-7178

E-Mail:npo@rsbbc.com

■ライター・プロフィール
服部健太郎(はっとり・けんたろう)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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