第22回『一球さん』『ドリームス』『キャプテン』より
「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!
★球言1
《意味》
野手がわざとグラブを投げつけて打球を止めた場合、たとえノーバウンドでキャッチできたとしても、フェアボールにグラブが触れた瞬間、無条件で攻撃側へ3つの進塁権が与えられる。
《寸評》
少年野球で指導者がキレまくることで、お馴染みのグラブ投げ。ボールに当たると三塁打。当たらなければ、どうということはない。進塁後もインプレーは続いているので、走者はホーム突入も可。完全なホームランボールならば、微かな可能性に賭けて三塁打を狙う手も。
《作品》
『一球さん』(水島新司/小学館)第2巻より
《解説》
昨夏の甲子園出場校・巨人学園が、大学ナンバー1の神宮大学に挑んだ練習試合。巨人学園は、野球のド素人である真田一球を四番・左翼手で先発出場させる。
驚異的な身体能力と、捉えどころのないプレーで試合をかき乱す一球。気が付けば、試合は序盤から巨人学園が5点をリードするという意外な展開に。
三回表、岩風監督の指示により、右翼手から三塁手へ守備位置を変更した一球。「サードといえば、巨人軍の長島監督が守っていた場所じゃん」と気をよくするものの、実際の守備ではエラーを連発。ついには、神宮大学の九番・五味連次郎が放った頭上の打球をグローブで撃墜。落ちてきたボールを素手でつかみ、「とった!! アウト!! アウト!! アウト!!」と大喜びする。
「えっ、グラブを投げたら、その瞬間、無条件三塁打なんですかァ……」
審判からルールを教えられた一球は、思わず照れ笑いを見せるのだった。
★球言2
《意味》
投手があまりに完璧な投球を見せると、わずかな失投が逆に目立ち、集中力の高まっている打者に狙い打ちされる。適度に打たせながら凡打を積み上げていくほうが、じつは点を取られにくい。
《寸評》
序盤から手も足も出ない投手ならば、足を使ったり球数を投げさせたり、色々と対抗策を練ることもできる。しかし毎回のようにヒットを重ね、得点圏へ走者を送る展開が続くと、かえってベンチは動きにくいもの。味方の守備にリズムを与える、という利点もある。
《作品》
『ドリームス』(七三太朗、川三番地/講談社)第11巻より
《解説》
夏の南東京大会準決勝。21イニング連続無失点記録を続ける夢の島高は、「守りの駒商」の異名を取る駒場商と対決する。
一回裏、いきなり一死満塁の好機をつかむ夢の島高。ここで一塁走者の久里武志は、駒場商が「セカンドゲッツーを狙ってる」ことを見破る。
なぜ駒場商は、三振でも内野フライでもなく、ゲッツーを狙うのか。その意図をスタンドで見守っていた王者・常陽学院の主砲・大道春樹が解説する。
「駒商の狙いは試合(※20)メイクだ!!(中略)打たせて・・・・凡打 凡打で試合(※20)を作った方が 点を取られにくい」
大道によれば、投手が完璧すぎると打者の集中力が高まるため、「失投は簡単に打てる球へと成り下がる」と言う。チームメイトの「じゃあ 打たせた方がいいってのは・・・・」という質問に、大道が断言する。
「投手(※21)の失投が目立たなくなる それに尽きる!!」
※20・作中では「試合」に「ゲーム」のルビ。
※21・作中では「投手」に「ピッチャー」のルビ。
★球言3
《意味》
しっかりとバットを握れるように、ロジンバッグの粉をたっぷりと両手に付けてから打席へ入る選手がいるが、かえってマメができてしまうので注意が必要。
《寸評》
かつて「子どもが手袋を使うなんて10年早い!」と言われた時代、選手たちの間で語り継がれた野球部の知恵袋的なアレ。滑りにくくなれば確かに摩擦力も増しそうだが、ロジンバッグの消費量を減らすために大人たちが吹き込んだデマ説も、完全には否定しがたい。
《作品》
『キャプテン』(ちばあきお/集英社)第24巻より
《解説》
エースの近藤茂一を新キャプテンとし、2年振りに春の中学選抜大会へと帰ってきた墨谷二中。一回戦で初出場の南ヶ浜中と対戦するも、なかなか点を奪えず、0対0のまま最終回へと入る。
九回表は、南ヶ浜中の攻撃。一死から代打の白井がレフト前ヒットを放つと、代走の臼井がすかさず二盗、三盗。一死三塁の勝ち越しチャンスを作る。
一方の墨谷二中は、ワンマン投手の近藤と、捕手・牧野との意思疎通が上手くいかない、イヤな展開。チグハグな守備で、スクイズを防げず、南ヶ浜中へ貴重な1点を献上してしまう。
立て直しを図りたい墨谷二中は、「じらし戦法」で時間をかける一番の岡本にも惑わされず、冷静な対応を取り戻す。しつこく滑り止めを付ける行為に対しては、牧野が「そんなにコナばっかりつけると かえってマメができるよ」の一言。岡本を自分たちのペースに巻き込み、見事ゲッツーでピンチを脱した。
文=
ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に
『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に
『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。