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本誌で語り尽くせなかったロングインタビュー完全版!三田紀房、高校野球の「監督」を斬る!(第1回)

『砂の栄冠』『クロカン』『甲子園へ行こう!』などで知られる三田紀房氏が、本誌『野球太郎』で語った「高校野球監督の見方」。紙幅の都合でカットせざるを得なかった未収録分をたっぷり含めた、完全版インタビューを全3回でお届け。


──高校野球の監督という職業について、三田先生が抱いている率直な印象をまず教えてください。

三田 一言で言うと、「モノ好き」を突き詰めた人だと思います。強豪校ともなると、365日、野球に囲まれて生きている人たちですから。よっぽど何か1つ、突き抜けた感覚がないと続かないでしょう。私生活もほとんどないわけですから。それを何十年もやっていられるっていうのは、普通とは違う、ちょっと異次元の世界ですよね。実際に、浮世離れした人も少なくないですし、特殊な感覚・感性が必要なことは確かだと思います。

──好きな監督のタイプはありますか?

三田 高校野球に殉ずるというか、自らの宗教観みたいなものに身を捧げることを厭わない監督を見ると、頑張ってもらいたいと思いますね。純粋であり続けようともがいている人というか、心の底から高校野球を愛そうとしている人というか。

 彼らの気持ちを阻害する要因というのが、やっぱり高校野球にはたくさんあるわけですよ。誘惑もあれば、周りが許してくれない状況もある。特に私立だと勝利を求められるし、手段を選んでちゃいけない、という悪魔の囁きも聞こえてくるわけです。「とにかく選手を集めて、徹底的にやらなければ勝てないんじゃないか」とか。

「ルビコン川を渡る」の故事じゃないですけど、1度渡ってしまえば解決できることが現実にはわかっていても、自分のなかで悩み続けている人というのが意外と多いんです。だから、そういう葛藤や苦悩に何とか抗って、自分の信じる道を進もうとしている人は尊いと感じますね。



──具体的に思い入れのある監督を挙げてください。

三田 今もっとも頑張ってほしいと思っているのは、花巻東の佐々木洋監督ですね。岩手県はボクの地元ですし、母校(黒沢尻北)の先輩後輩という間柄でもある。花巻東が甲子園で勝った日の夜、一緒に食事しながら喜びを分かち合ったこともあります。そういった個人的な関係もあるので、何とか頂上に立たせたい、立ってもらいたいと思っています。

 指導者として特に尊敬しているのは、今は高校野球の現場は離れられましたけど、香田誉士史さん(元駒大苫小牧監督)。北海道という環境から全国を制するというのは、通常に比べて3倍の努力が必要。球史に残る監督でしょう。

 あと今後、来そうだなと思うのは弘前学院聖愛の原田一範監督。彼はいいですよね。甲子園へ何をしに来て、何をして帰ればいいかをよくわかっていますよ。たとえば、彼らの自衛隊みたいな挨拶も、批判は覚悟の上だと思うんです。でも甲子園のファンはあれを見ただけで「おもろいな!」となるわけで、初出場で強烈な印象を残しましたよね。

──先生は毎年、甲子園で試合を観戦されていますが、主に監督のどこに注目していますか?

三田 ベンチでの動きは注目して見ています。落ち着きのない人もいれば、固まっている人もいる。監督それぞれの人柄が表れている気がします。さっき言った原田監督などは、絶対に壁やベンチに寄りかからないですしね。手を後ろに組んで、ずっと立っている。慌てている監督は、明らかに慌てていますしね。逆に固まっている人は本当に動かないという(笑)。

「なんであの人が監督に!?」
と思う人が現実の高校野球にもいる


──現在連載中の『砂の栄冠』でも、曽我部公俊監督(通称・ガーソ)という、試合中に固まってばかりのダメ指揮官が、主人公チームを率いています。

三田 マンガの特性として、主人公というのは様々なハンディがあればあるほど強くなるわけです。『砂の栄冠』の主人公である七嶋裕之は、体が大きく、身体能力も高い。投げる球は速いし、バッティングもスゴイという、プラス面をたくさん持った高校生です。でも、それだけでは面白い作品にはならないので、マイナス面をつけ加える必要がある。監督というのはチームのコントロールタワーですから、そこがまったく機能しないというのは、高校球児が恵まれない環境を用意する上で、最大のハンディになると考えました。

──確かに七嶋は、敵のチームと試合をしながら、常に味方ベンチとも戦っている感じです。

三田 四面楚歌ですよね。彼は厳しい状況であればあるほど、乗り越えて力を発揮するタイプ。そういうキャラクターにしよう、という意図が最初からあったわけです。

──しかもガーソは、ただ監督としての能力が低いだけでなく、人間的にも非常に器の小さいという……。

三田 ええ、それも意図的です。ガーソは意地悪でヒガミっぽくて……。とにかく人間のイヤなところを全部持っているというキャラクター。でも、運だけはよく、どういうワケか彼は最後に勝つんですよ。そういう人って、世の中にたくさんいるじゃないですか。「なんであの人が出世すんの?」みたいな。人間誰もが社会のなかで何となくそういった不満を持っていて、その状況を七嶋の状況と重ね合わせてほしいと考えたんです。

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──確かに。

三田 まあ、実際の高校野球にもいますけどね、「なんであの人が監督してんの?」みたいな人(笑)。

 現場へ行くと、意外にも監督をやりたがる人って少ないんですよ。特に部員数の少ない公立校。もし「オレやります!」という奇特な人がいれば、学校としても大歓迎です。だから「性格的にちょっとな……」というケースでも監督になってたりするんです。

 そうした事情もあって、色々な人がいるんですよ。世間のイメージだと、「心から野球が好きで、子どもたちが好きで、朝から晩まで一緒に野球をやってくれるいい人」が高校野球の監督だと思われがちだけど、イヤイヤやっている人もいるし、何だかワケのわからない人がやっている場合もある。全国に4000校あれば、4000人の監督がいるわけですから、違っていて当たり前なんですけどね。


■三田紀房先生プロフィール
三田紀房(みた・のりふさ)/1958(昭和33)年生まれ、岩手県出身。会社勤めを経て、漫画家デビュー。『クロカン』『甲子園へ行こう!』『スカウト誠四郎』などの野球マンガを手がける。また野球以外でも『ドラゴン桜』など人気作品を多数輩出。現在、週刊ヤングマガジンで『砂の栄冠』を連載中。

■ライタープロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年(昭和50)生まれ。野球マンガ評論家。著書に『あだち充は世阿弥である。――秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ―彩珠学院 甲子園までの軌跡―』(小学館)など。『野球太郎No.010 高校野球監督名鑑』では、高校野球マンガに登場する名監督たちをタイプ別に分析した。

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