中央大・島袋洋奨「復活への序章」
駒澤大との同率首位(勝ち点2・5勝2敗)で第5週を迎えた中央大。拓殖大との1回戦(9月30日)は、序盤から中央大自慢の強打線が力を発揮する。3回までに6点を奪うと、なおも手を緩めず、この日、先発起用の佐藤匠(3年・明豊高)と山田直(2年・静岡高)が5回に中押しとなる連続タイムリー。さらに、7回には代打・金子大喜(4年・西日本短大付高)がレフトスタンド中段に飛び込む文句なしの一発でダメ押しの得点を奪った。そして9回、10−4で中央大リードという「最高のお膳立て」が整った中、部員の誰からも慕われる主将・島袋洋奨(4年・興南高)がマウンドへ上がる。
島袋の今秋のリーグ戦初登板は9月9日の國學院大1回戦。3番手で登板したものの、3四球で犠打による1つのアウトしか取れなかった。全16球すべて、ストレートを投じ、その球速は140キロ止まり。以後、登板機会を失っていた。
だが、この日の島袋は、マウンドに上がり投球練習を終えると、笑みを浮かべた。それは戻ってきた感触を少しずつではあるが、掴んだようだった。
島袋は最初の打者をショートゴロに打ち取ると、次打者の初球で148キロを計測する。最後は139キロのストレートで空振り三振を奪う。その後、味方の失策や四球でランナーを出し、連続タイムリーで2点を失ったものの、最後の打者をセカンドゴロに打ち取りゲームセット。ベンチからは選手たちが勢いよく島袋に駆け寄り、ハイタッチ。応援席からも一際大きな歓声が送られた。
「みんなが作ってくれた場面。思いきり投げました」
と試合後に、島袋は感謝の言葉を口にした。
▲ストレートのキレと笑顔が戻ってきた島袋。残すところリーグ戦はあと2カードとなっている。[写真・高木遊]
また、島袋の前を投げ、今季2勝目を挙げた石垣永悟(4年・桐蔭学園高)は「楽しくやろうぜ」と島袋を送り出したことを明かし、試合後のキャッチボールでは「“おめでとう”と声をかけました。あいつが泣きそうだったんで、自分ももらい泣きしそうになりましたね」と振り返った。
1勝1敗で迎えた3回戦(10月2日)では1点ビハインドで迎えた7回から3番手で登板。もう1点も与えられない状況の中、3回を投げ、1安打3奪三振3四死球の内容で無失点に抑えた。この日は三者連続三振や、ストレートだけでなくスライダーも見せるなど、一歩一歩、復活への道を歩んでいる。
結果としては、中央大は拓殖大に対し1勝2敗で、今季初めて勝ち点を落とした。しかし、「あいつが戻ってきたことで、よりいっそう中央大全員で戦えると思います」という力強く話した石垣の言葉のように、島袋の投球でチームの連帯感はさらに深まった。
チームメイト全員の願いである島袋の復活。その先には、大きな辛苦を乗り越えた、新しい島袋洋奨の誕生が待っているはずだ。
■プロフィール
文=高木遊(たかぎ・ゆう)/1988年、東京都出身。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。昨年は東都大学野球春・秋1部全試合を取材。大学野球を中心に、アイスホッケー、ラグビー、ボクシングなども取材領域とする。高木遊の『熱闘通信』随時更新中(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/buaka/)。twitterアカウントは@you_the_ballad