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明石家さんまさんの1日コーチ、あのONからメッセージ……こんな幸せなことはありません!

 NPBのセ・パ両リーグ、MLBのア・ナ両リーグ、2軍や3A、そして独立リーグとさまざまなカテゴリーで28年間のプロ野球生活を送ってきた木田優夫。その独特のキャリアの中で、特に思い出に残っていることとは何だろうか?――

「2002年に腰のリハビリで丸1年野球から離れたあと、2003年にドジャーズと契約しました。ところが、キャンプ直前に交通事故にあったことも影響してしばらくマイナー暮らし。そして、8月にようやく昇格してシカゴで投げたとき、『やっと戻ってこれた!』と本当に嬉しかったんですね。キャリアの中でも大事な思い出のひとつです。

 実はこの2年間、そのことばっかり考えて野球をしていました。つまり、もう一度あの舞台に戻ろう、と……まあでも、現役最後の2日間も特にすごい思い出ですね。あんなこと、他の野球選手じゃ体験できないと思いますから」


 現役最後の2日間、とは、9月14日の引退試合。そして、その前日に行われた、明石家さんまさんが「1日限定コーチ」に就任してくれた試合、という木田投手だからこそ実現できた企画のことだ。その日は東京からもメディアがつめかけ、球場にはBCリーグ新記録となる1万5877人の観客が来場し、大きな話題を集めた。



「さんまさんの1日コーチは、僕から直接さんまさんにお願いしました。『うちと契約してコーチやってください』と。あとはもう、何をやるかはさんまさん次第(笑)。『もう好きにやってください』とお願いしたら、まあベンチで一番声を出してくれたのでビックリでしたね。

 当初イメージしていたのは、試合前にちょっとだけ皆さんに挨拶してもらって、試合途中にもちょこちょこって顔を見せてもらって、最後、マウンドで『コーチ』として僕にボールを渡してもらえれば、と。でも、他の選手にも身振り手振りでいろんな指示を出していただいたり、小林繁さん(元巨人ほか)のモノマネなんて何年ぶりなんだろう? って。本当にあそこまでやっていただけるとは思ってもいませんでした。

 その翌日の引退試合では、王貞治さんから色紙を頂き、長嶋茂雄さんからもメッセージを頂きました。あのONからメッセージを頂いて野球人生が終わるなんて、こんな幸せなことはありません……本当に、夢のような2日間でしたね。あの2日間っていうのは、やっぱり僕じゃなきゃ経験させてもらえないことだと思うんです。そう考えると、やっぱり最後の2日間が一番の思い出になるのかもしれないですね」


 巨人時代には監督と選手として同じユニフォームに袖を通した王貞治氏と長嶋茂雄氏。そして、芸能界において様々な教えを受けてきた明石家さんま氏。彼らは木田優夫にとっての恩師であるとともに、生涯にわたるスーパースターだという。自著『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』でも、奇しくも3人にまつわるこんな記述がある。


《プロ入り後、はじめて監督である王さんにお会いした時、そして長嶋さんとの初対面の時は、「これがオーラか!?」という、得体の知れない凄みを感じたことを憶えています。そうやって若い時分からスーパースターへの免疫ができていたからこそ、明石家さんまさんという芸能界のスーパースターとも番組共演ができているんだと思います》

「さんまさんに『1日コーチをやってもらおう』なんていう発想は、きっとプロ野球生活28年の中で、色んな球団や指導者、そして日米も含めて様々な野球リーグで過ごしてきたからこそ、できたことだと思うんです。

 極端なことを言えば、ジャイアンツだけでずーっと過ごしていたら、仮にさんまさんを呼ぶことがあっても、始球式をお願いして終わっていたと思うんです。でも、異なる環境に身を置いていろんな経験をしたことで、野球の技術だけじゃなく、僕自身の野球観そのものが広がりましたから。

 でも、僕自身も含め、野球界はまだまだ学ぶべきことがたくさんあると思います。さんまさん1日コーチの日、最後はみんなで球場を1周したんですけど、それも当初は予定していなかったこと。でも、さんまさんから『せっかくお客さんに来て頂いたんだから1周まわろう』と提案をいただいたんです。いやぁ、本当にすごい人だなと改めて思いましたね。

 やっぱり、エンターテイメントの世界、ファンサービスの世界で生きている人は、そういう氣持ちや考え方を持ってなきゃいけないんだな、と。そのことを、独立リーグの人間はもっともっと感じなきゃいけないんじゃないか、と思っています」


(次週へ続く)

■プロフィール
木田優夫(きだ・まさお)/石川ミリオンスターズGM。1968年9月12日生まれ。東京都出身。1987年、日大明誠高からドラフト1位で巨人に入団。1998年、トレードでオリックスに移籍。同年10月にFA宣言し、日本人8人目のメジャーリーガーとしてデトロイト・タイガースに入団。その後は、オリックス復帰(2000〜2001)、ロサンゼルス・ドジャース(2003〜2004)、シアトル・マリナーズ(2004〜2005)、ヤクルト(2006〜2009)、日本ハム(2010〜2012)と、日米7球団を渡り歩く。2013年からは、日本の独立リーグ・BCリーグの石川ミリオンスターズに所属。「投手兼営業」「投手兼GM」の肩書きでプレーした。2014年限りで現役を引退した。

■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)

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