PL学園野球部、59回目の夏が開幕! 最大の課題ベンチワークをいかに克服するか?
【この記事の読みどころ】
・力がある打撃陣への注文は「毎試合7点以上」
・大阪桐蔭戦連敗の敗因は、弱気なバッテリーと後手後手の投手交代
・選手同士の連絡を密にして、“監督がいない”マイナスを補いたい
7月11日の土曜日、午前11時から京セラドーム大阪で始まった大阪大会の開会式。参加180校による入場行進は40分に及び、続けて大会会長の13分超えという記録的ロングスピーチなどなど……。スタンドから眺めながら、いろいろ思わされた開会式が終わると、関大北陽と野崎の開幕戦が始まるまでの間、スタンド下では各校の選手数名が報道陣からの取材を受けていた。その中、大阪桐蔭・主将の福田光輝と履正社・主将の西村卓浩に挟まれる形で立っていたのがPL学園・主将の謝名堂陸だった。
春はPLのナインは大会後の取材をほとんど受けなかったため、記者の矢継ぎ早の、しかし、改めての問いに丁寧に返していた。
「前までは自分たちが頑張って結果を出すことで、部員募集の再開へつながるのではないかと思っていました。でも、コーチから『お前たちはそんなことを考えなくていい。自分たちの野球をすることだけ考えろ』と言われて、今はそこに集中しています」
☆手応えを感じる打撃陣。キーワードは「7点取れ」
前回の記事でも書いたが、PLは昨夏の決勝戦、秋の決勝戦、そして今春の準々決勝と敗れた相手はいずれも大阪桐蔭。大阪では他の学校には1度も敗れておらず、まして2強の一角、履正社には昨秋、勝利している。そこへ夏の初戦で大阪桐蔭と履正社がぶつかる強力な追い風も吹き、PLの戦い次第で頂点も見えてくる、そんな状況になっている。
▲謝名堂陸(PL学園主将)
戦力的にも、野手は1番の謝名堂から、新チーム以来の打率が5割超えの辻涼介、長打のある大丸巧貴、グルラジャ二・ネイサンらクリーンアップを中心に各打者が一定以上の力を持っている。現在、チームの練習を深瀬猛コーチとともに見る若い千葉智哉コーチは夏へ向け打線にこう注文をつけた。
「毎試合7点以上を取れるように、やってくれ」
これは大阪桐蔭との対戦を意識してのノルマでもある。敗れた3戦を振り返ると昨夏から順に1−9、4−11、1−8。“あの”強力打線を考えた時、「失点をこれまでより減らすことはもちろんですが、ある程度はやむをえない。夏はこちらが相手以上に打たないと勝てない」(千葉コーチ)ということだ。ただ、「7点」を意識するあまり、選手が大振りになることは避けたい。そこで千葉コーチはこうも檄を飛ばしてきた。
「ウチと(大阪)桐蔭が当たるとなれば、球場は絶対舞洲になる(集客の関係で、当初は他球場の予定でも変更になる、という意味)。両翼100メートル、センター122メートルでフェンスも高い。舞洲で7点取ろうとしたらホームランでは無理とわかるやろ? じゃあ、どういうバッティングを普段からやっとかなアカンか、ということやぞ」
1本打撃を繰り返しながら徹底してきたのは、センター返しと走者を進める右打ち。謝名堂もこのあたりの話に触れながら「攻撃面はつなぎの意識を徹底出来てきたと思うし、春以降にもう一つ力をつけた。練習試合でもそこは感じてきました」
☆最大の課題は“監督がいない”ベンチワーク
攻撃力が底上げできたなら、なお問題になるのが、先にも書いた失点の部分になる。「3連敗」の試合はいずれも見たが、2回終了時点の得点が0−5、0−5、0−8(昨夏から順番に)。序盤にこれだけ取られては、さすがに大阪桐蔭相手にはキツい展開だ。
立ち上がりから失点のシーンを思い返すと、バッテリーの弱気を感じたとともに、もう1つ、明らかな課題はベンチワークだった。周知の通り、一昨年秋以降のPLは野球未経験の校長が監督を兼務し、試合時のベンチに座ってきた。部長も同様に経験者ではない(今春、監督、部長は交代したが状況は同じ)。
そこで現チームでは謝名堂とベンチメンバーの奥野泰成、捕手の中田一真らが中心となり選手の交代も決めてきた。ただ、同級生を代える難しさや、もちろんその点の経験不足も含め、どうしても後手、後手になっていた。この点は謝名堂も重々承知しており「夏を勝ち上がるための一番の課題は?」と聞くと、迷わず返してきた。
「選手交代であったりのベンチワークです。そこも練習試合から意識してやってきました。だからピッチャーの調子が悪い、相手とあってると思ったら迷わずに、ベンチと連携して代えるなら代えていきたい」
舞洲はブルペンがベンチ裏にあるため、投球練習中の投手の状態を常に奥野らが中心となり確認。その上で現在投げている投手の調子を捕手と謝名堂で見極め、場合によっては早めに手を打つ、と。
投手陣には経験豊富な左の山本尊日出、クロスのストレートに力のある右の難波雅也、変化球の精度が高い林陽介と3枚が揃う。このあたりの力を上手く引き出し、つなげていければ2009年秋から数えれば7連敗中でもある天敵・大阪桐蔭に一矢報いることも、大阪の頂点に立つことも可能だろう。
▲山本尊日出(PL学園)
さて、まずは初戦。18日、南港中央野球場の第1試合、登美丘との一戦からPL学園野球部にとって59回目の夏が始まる。
■ライター・プロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)/1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(楽天)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。近著に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)がある。