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第八回 チーム選びの落とし穴(2)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第七回目。今回は野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「チーム選び」について語ります。

 前回は、「わが子どもを少年野球チームに入れる時、各家庭は、いったい何を基準にチームを選んでいるのか?」を考えつつも、「チーム選びをする上で最も多い理由と基準」とその「落とし穴」について詳しく触れることなく、スペースが尽きてしまった。今回は、そのあたりを詳しく紹介していこう。

◎「強いチーム」の落とし穴

「強いチーム」
 おそらく、これが「わが子のチーム選びの基準ナンバーワン」ではないだろうか。
「子どもの野球なのに勝負にこだわりすぎている親子だと思われたくない」。そんな心理が働くせいか、大きな声で語られることは少ないけど、「あぁ、あそこの家、チームに入るときはそんな風には言ってなかったけど、要は、強いチームに行きたかったんだな」と後に確信してしまうケースは多々ある。
 もちろん「同じ野球をするのなら、負ける確率が高いチームよりも、勝つ確率が高いチームでやらせてあげたい」と思うのはごく自然な心情であり、非難されるべき点はなにひとつない。
 ただ、ひとつ気になるのは、せっかくチームに入部したものの、チームに不満を抱いたり、ほかのチームへ移籍を企てたりする親子の多くが、「強いから」という理由で最初のチームを選んでいることだ。
 チームに不満を抱いている理由をたずねると、「あのチームは勝つことしか考えていない」といった答えが返ってきたりする。
 強いという理由でチームを選ぶのはけっして間違ったことではないけど、落とし穴は多い。
 つまりは、そういうことなのかもしれない。

◎「強さ」の要因と落とし穴

 「強いチームって一口にいうけど、強さの要因にもいろいろあるよね……。」
 少年野球関係者同士でお酒を飲んでいると、そんな話で盛り上がることがある。

 例えば「年がら年中、ベストメンバーで戦っているチーム」
 大きな大会であろうが、練習試合であろうが、ベストメンバーで臨むのが常。試合の性質によって控えの選手がスタメンの機会をもらえることなどはないに等しく、実戦経験をどしどし積んでいくレギュラー陣と控え選手の差が年月を経るごとに開いていく。そのため、控えの選手のモチベーションは下がり、不満がたまりやすくなる。ホームページで「今年度の成績は98勝5敗!」などと異常な高勝率をアピールしているチームは、この類の「強いチーム」である可能性が高い。

 「練習メニューがレギュラー陣中心に組まれているチーム」
 具体例としては、「同学年の中で、フリーバッティングで打つ本数がレギュラー陣のほうが多い」、「ノックを受けるのはレギュラー陣中心で、控えの選手はランナー役をやっている時間の方が多い」などなど。「試合に出る確率が高い選手を集中的に鍛えている」という言い方もできるため、勝利を得る上での時間効率はいい。その結果、「強い」と言う評価を得ているケースは多くなる。
しかし「レギュラー陣の何倍も練習しないと追いつけない!」と感じている控えの選手の立場に立てば、実にやるせない話となる。全員同じ練習メニューをこなした上でレギュラーとの実力差が生じ、控えに甘んじるならばまだ納得もできようが、練習メニューそのものに差をつけられると、公平な競争をさせてもらえなかった、という不満がどうしても芽生えてしまう。モチベーションの低下を避けることは困難だろう。

「勝利のためには、子供たちの酷使をいとわないチーム」
少年野球の大会スケジュールは過密なケースが多く、ダブルヘッダーは当たり前。勝ち進むチームほど、さまざまな大会が同じ週に重なりやすくなり、週末だけで公式戦4試合、3連休だと6試合が組まれるケースも珍しくない。一年中、なにかしらの大会があるため、シーズンオフは無いに等しく、豪雪地帯でもない限り、年がら年中試合をしているチームがほとんどだ。 
 そんな過酷なスケジュールの中で勝利にこだわると、「とにかくエースピッチャーをフル回転させる」という発想になりやすい。
 子どもの体に支障が出なければ、エースピッチャーもその親も笑って卒団できるかもしれない。しかし、チームの勝利の代償として子どもが肩ひじを壊してしまい、後の野球生活に支障が出てしまうケースは多い。そうなると、親子に残るのはチームに対する恨みと、勝利至上主義のチームを選んでしまった自分たちへの後悔の念ばかりとなる。
「今となってみれば、少年野球の勝利にどれほどの意味があったのかと思う。少なくとも、わが子の体と未来を犠牲にする価値はないよね……。」
 そんな後の祭り的な言葉を聞くたび、勝利至上主義の危険にさらされている多くの少年野球選手たちの身を案じずにはいられなくなる。

「戦術に走りすぎるがゆえ、強い」
 少年野球では、戦術面に徹し、指導者の駒になれる選手が多いチームが上位に勝ちあがるケースが多い。特に軟式では、ゴロ打ちを徹底させる、エンドラン、スクイズを多用するなど、試合に勝つためのテクニックを重視しているチームが良い成績を残す。
 しかし、そういったチームは、「選手個々の器を大きくして中学へ送り出そう」という視点に欠けている。結果、チームは強いにもかかわらず、「勝つためだけのチマチマした野球ばかりやっていて、中学、高校ではまともに通用しない選手になってしまうのではないか」といった不安を親子で抱えるケースも見られる。

 「平日練習が多いから強い」
 なんだか当たり前のような強さの秘密だが、小学生の段階ではチームの活動は週末のみというケースが大半のため、平日にも練習をおこなうことで他チームに比べ優位に立てる確率は高い。週末に試合を数多く組めるため、実戦経験も豊富になる。練習の質に疑問符がつくチームだとしても、絶対量でカバーできるため、「強い」と称されるチームは生まれやすい。
 ただし、塾やほかのお稽古事との両立が大変になるため、勉強など、子どもの生活自体はアップアップになりがち。「多少チームが弱くても、週末だけの活動のチームの方がよかったかなぁ」とぼやく親子は少なくない。
◎「なぜ強いのか?」という視点を持とう

「こんなふうに書かれると、強いと言われるチームには入れないほうがいいと思っちゃうじゃないか!」
 ここまでせっかく読んでくれたのに、そんな気持ちになってしまった方がいたら申し訳ないので、念のため記しておくが、世の中の「強い」チームの全てに、今回記したような「落とし穴」があると言っているのではない。
 個々の選手の未来図を常に意識しながら、ひとりひとりのレベルをじっくりと上げつつ、戦術に走りすぎることなく勝つ、そんなチームももちろん存在する。公平な競争の下、控えの選手にもやりがいと充実感を感じさせながら、子どもたちに酷使を強いることもなく、安定した勝率を毎年マークするチームも数多くある。

 もし今後、子供の入るチームを選ぶという状況になり、かつ「強いチーム」に入れたいと思ったら、まずは冷静になって、こんな風に考えてみることが大事だ。
「あのチームは強いけど、その強さの理由はいったいなんなんだろう?」
そして今回の記事を思い出して欲しい。「強い理由」を考えるだけで、前述のような「落とし穴」にはまる可能性は減らせるはずだ。

 今回この記事を読んで、「強いチームはいろいろと問題がありそうで怖いな。勝負にこだわらない、のびのびとしたゆるいチームを探そう」……なんていう気持ちになってしまった方もいるかもしれない。では、「のびのびとした緩いチーム」ならば問題はないのか? というと、そうとも限らないのだ。ここにもまた、「落とし穴」がある。
   ……そう、チーム選びはかくも難しい。

(次回につづく)



文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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