今年もドラフトで多くの若者が指名された。指名後の祝賀ムードとは裏腹に、この先に待つのは厳しい競争である。彼らのうち、5年後にプロ野球界に選手として身を置いている者はどのくらいになるだろうか。
それでも彼らはまだいい。一度であっても、プロのフィールドに立つというチャンスを手にしたのだから。ドラフト指名された選手の裏側には、その数倍の「ドラフト候補選手」が存在する。そんな候補選手たちとドラフトで指名された選手、特に下位指名の選手との力の差は紙一重。場合によっては、指名を見送られた選手の中には、指名選手より実力がある者もいるだろう。
夢をたぐり寄せながら、「ドラフト候補選手」のままを野球人生終えてしまう理由は様々だ。リストアップした球団の選手事情やFA事情などのタイミング、あるいはケガ、そして年齢。ここで紹介するのは、エリートコースから「寄り道」しながらも、夢をたぐり寄せようとしたある男のストーリーである。
長坂秀樹の名を知っているのは、余程の野球マニアだろう。18年前、長野の東海大三高のエースとして甲子園の舞台に立ち、東海大では主戦投手として1998年の大学選手権準優勝に貢献した。168センチの少々ずんぐりした体から150キロの剛球を投げ込んでいた。野球エリートコースを歩み、前途洋洋に思えたのだが……。