・球種がわかれば、試合が見えてくる
キビタ:野球を見ていくうえでネックになるのは、ピッチャーの球種がよくわからないことだと思います。
久保:ストレートとカーブはすぐわかるけど、ボールの軌道だけを見ていても、なかなか判別しにくい球種もあります。あとはスピードガン表示を頼りにするか…。でも、そのうち面倒になって「全部スライダーでいいんじゃないの」と投げやりになったら、もう終わりです。ただ打った、投げたの繰り返しになって、試合に入り込めなくなります。
キビタ:球種がわかれば、バッテリーがどのように打者を打ち取ろうとしているかが見えてきます。前回に「ボールだけを追いかけない」見方をお話ししましたが、球種の判別方法でもこの考え方が役立ちます。
久保:ボール以外のどこを見ていけばいいでしょうか?
キビタ:キャッチャーの構え、捕り方をよく見ていれば、かなりの確率で球種がわかるようになります。これから紹介するのは、データスタジアムにいた行木茂満さん(現・楽天スコアラー)から教わった、球種を判別するための方法です。この考え方さえわかっておけば、球種を推測しやすくなると思います。
・ボールよりも、キャッチャーを追え
キビタ:それでは中日の川上憲伸の映像をごらんください。川上はボールを動かすのが得意な右投手。球の軌道だけを見ていても球種がわかりにくいピッチャーです。そこでカギを握るのがキャッチャーの動き。谷繁元信の構えた位置やミットの動かし方に注目してください。
――キャッチャー谷繁、左バッターの内側に構えた。ピッチャー川上、投げた。谷繁捕った。内角ひざ元、球速は142キロです。
キビタ:捕球した直後の谷繁の姿をよく見てください。ここで球種がわかるヒントが出てきました。キャッチボールでもなんでも、野球選手は体の中心でボールを捕るという習慣があります。
久保:よく「相手の胸に投げなさい」なんて言いますよね。
キビタ:キャッチャーの場合は、体の真ん中でストレートを捕球します。そこで谷繁のミットを見てもらいたいのですが、体の中心よりも少し左打者寄りになっているのがわかりますか? こういう動きをしている場合は、スライダー、カットボールの可能性が高いと言えます。この場合はおそらくカットボールでしょう。すべてのキャッチャーがそうとは言い切れませんが、こういった推測が成り立ちます。
久保:同じ内角の球でも、ストレートだとどうなりますか?
キビタ:キャッチャーはもっと打者寄りに構えますね。そしてミットは体の中心になります。次の映像を見てください。
――次の投球。キャッチャー谷繁、真ん中に構えている。ピッチャー川上、投げた。真ん中低め、ちょっと沈んだか? 137キロ、少し低めに外れました。
キビタ:ここでのキャッチャーの構え、どうですか? 体の中心にミットを構えて、そのまま捕っています。球速は初球のカットボールより遅いですけど、これはおそらくストレートです。ただ川上憲伸は少しずつ握りを変えてボールを動かしてくるので、球筋から見てもきれいなフォーシームではなさそうです。ツーシームだと推測できます。
久保:補足説明ですけど、ボールが一回転する間に、ボールを横切る縫い目が4回見えるのがフォーシーム。バックスピンのかかったきれいな真っすぐです。ボールが一回転する間に、ボールを横切る縫い目が2回しか見えないのがツーシーム。真っすぐの軌道から少し動きます。
キビタ:バッテリーのやり取りからすると、谷繁のサインはストレートだけで、川上が状況に応じてフォーシームかツーシームかを選んでいるんでしょうね。
久保:シュートの場合はどうですか?
キビタ:では、シュートの映像も見てみましょうか。
――キャッチャー谷繁、右バッターの懐寄りに構えた。ピッチャー川上が投げた。内角、ボールが食い込みながら少し沈んだか。谷繁のミットが寄る。バッター打った。ファウル。自打球が足に当たりました。
キビタ:キャッチャーのミットが少し右打者の方に寄りましたね。これでシュートだと推測できます。ストレートであれば、もっとキャッチャーが右打者に寄って構えますし、ミットをボールにかぶせるような捕り方になります。それから打球にも注目してください。自打球になりました。このように足元に転がったり、自打球になったりした場合は、シュートである確率が非常に高いと言えるでしょう。