とうとう今年で選手生活30年目である。
これは長寿投手の先駆者であった工藤公康(元西武ほか)の29年を抜き、堂々の歴代1位。8月11日には48回目の誕生日を迎えたが、こうして未知の領域のような数字を並べるよりも、「山本昌のプロ1年目に浅尾拓也がこの世に生を受けた」といった豆情報を提供したほうが、その年月の長さと尊さをリアルに実感できるのかもしれない。
山本昌の一番の凄さは「48歳にしてチームに必要な戦力として認められている」ことだろう。それも先発投手としてだ。最年長勝利投手の日本記録は元阪急の浜崎真二の48歳4カ月だが、その記録を塗り替えるべく、周囲が強引に後押しをしているわけでもない。長く続けることに目的がすり替わっているわけでもない。トレード経験ゼロは、30年もの間、チーム構想から漏れることのなかったなによりの証だ。
「いいものがあればどんどん取り入れていくし、変化することへの怖さは若い頃はあったけど、今はもうない。守りに入ることはなくなった」
「その時はベストのフォームだと思っても、数年後に振り返ると、『あの時はものすごく幼稚な考えで野球をしていたなぁ』と思ったりする。でもたぶん野球人生はこの繰り返し。貪欲に新しいことにトライする気持ちがある限り、この話に終わりはない」
今から9年前、39歳になったばかりの山本昌にインタビューした際、そんな印象的な言葉が返ってきたことを昨日のことのように覚えている。長く続けられてきた秘密を垣間見た気がしたし、「この人、まだ当分野球辞めないな! それどころかまだまだ野球がうまくなるんじゃないの!?」とも思った。
だから、「山本昌は40代に突入してからの方がストレートのスピードが上がっている! 普通は落ちていく一方なのに!」「43歳で自己最速の143キロを記録!」と話題になっても、特別、驚くことはなかった。
心に宿ったのは「やっぱり気持ちの持ちようで年齢なんて克服していけるんだ!」という前向きな気持ちだけだった。
今回「いま、見ておかないと後悔する選手」の一人として山本昌投手を推したのは、「『球界のシーラカンス』『リアル岩田鉄五郎』を今のうちにしっかりと見ておこう!」といった「天然記念物観戦のススメ」的な意味合いではない。現在の球界で最も強く「年齢なんてくそくらえ! 大事なのは気の持ちようだ!」という気持ちにさせてくれる選手だと思ったからだ。
球場を後にしながら、「できないことを年齢のせいにしていなかったか?」「上を目指す気持ちを忘れていなかったか?」と自問自答するもよし。
観戦した日が山本昌の自己最高球速更新日と重なる可能性だってある。そんな試合が目撃できれば、プロ野球ファンとしてはかなりの果報者である。