「日本でツーシームが流行らないのは、縫い目が狭いから。」《今回の野球格言》
《今回の野球格言》
・日本でツーシームが流行らないのは、縫い目が狭いから。
・延長では、型通り攻めても点が入らない。
・スリーフィートオーバーは「行為プレー」。
「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!
★球言1
《意味》
日本の統一球は、メジャー球よりも縫い目の幅が狭いため、回転時の空気抵抗が小さく、ボールが変化にしくい。メジャーで大人気のツーシームが、日本で流行らない理由がここにある。
《寸評》
表面積に対する縫い目の割合が大きくなれば、変化の度合いが大きくなるのも当然。同様の理由で、日本にナックルボーラーが育たないとも言われている。日米で使うボールの違いとしては、縫い目の高さや表面の滑りやすさなどの点も、しばしば挙げられる。
《作品》
『マウンドファーザー』(野部利雄/小学館)第2巻より
《解説》
東都エンジェルスの神堂マリは、日本プロ野球史上初の女性選手。自分をスカウトし、育ててくれたエンジェルスの元投手・辺里教武を父のように慕っている。
ある日、メジャーリーグの映像を観ていたマリは、ツーシームに興味を抱く。マリに説明を請われた辺里は、ツーシームという球種の概要を伝えはしたが、同時に「俺は好かねえ」と否定的な見解も重ねる。
「日本じゃイマイチ流行ってねえのが、何でかわかるか? 理由は単純、使ってるボールが違うからだ!」
日本のボールは縫い目が狭いため、メジャーよりも変化が小さい。超一流の投手でも「主力武器じゃねえ」というのが辺里の意見だった。
しかし、どうしてもツーシームを投げてみたいマリは、辺里に内緒で練習を重ね、実戦投入を試みる。
★球言2
《意味》
無死の走者をバントで送るといった、型通りの攻撃は、延長に入ると点に結びつきにくい。リスクを冒してでも大胆な攻撃を選択し、積極的に試合を動かしていく必要がある。
《寸評》
そもそも決定打に欠けているから、試合が延長までもつれている、という事実がある。延長に入ると、選手たちのプレッシャーはさらに増す。型通りの失敗を重ねて泥沼にハマッていくよりも、リズムを変えてワンチャンスを狙っていくほうが、確かに現実的かもしれない。
《作品》
『砂の栄冠』(三田紀房/講談社)第21巻より
《解説》
4番でエースの七嶋裕之が率いる樫野高は、夏の甲子園2回戦で下五島高と対戦。監督は、かつて自分たちが指導を依頼した「伝説のノックマン」。こちらの手を知り尽くした厄介な相手である。
鍛え抜かれた下五島高の守備を前に、ロースコアの展開を余儀なくされた樫野高。8回裏に何とか同点としたものの、1−1のまま延長へと突入してしまう。
迎えた11回表。下五島高の3番・福永がレフト前にヒットを放ち、無死1塁。ここで「伝説のノックマン」は強攻策を選択する。
「延長ではバントで送って型どおり攻めると点が入らない」
強気に打っていくことを決めた「伝説のバットマン」は、得点圏に走者が進んだ後、代打を送るところまで早くも頭の中で画策していた。
★球言3
《意味》
タッチプレーやランダウンプレーなどで適用されるスリーフィートラインのルール。走者がオーバーしただけではアウトの成立にはならず、守備側がタッチをしにいく「行為」が求められる。
《寸評》
ルールブックのスリーフィートの項には「走者が、野手の触球を避けて」(※33)走った場合はアウトとある。つまり触球を避けていないケース、例えば長打で大回りをしているときなど、はスリーフィートの対象外となる。アピールプレーでもないので、あとからの抗議も不可。
《作品》
『ドカベン スーパースターズ編』(水島新司/秋田書店)第17巻より
《解説》
2006年、パ・リーグのペナントレース。山田太郎、岩鬼正美らが率いる東京スーパースターズは、好調の北海道日本ハムファイターズと対戦。8回表まで4−4の接戦にもつれ込む。
8回裏、日本ハムの攻撃。2死一、三塁。ここで一塁走者の新庄剛志が盗塁を敢行。が、捕手・山田による矢のような送球に阻まれ、一二塁間にストップ。スリーフィートを超えた場所で、思わず転倒してしまう。
スリーアウトを取ったとベンチへ引き上げるスーパースターズの選手たち。が、スコアボードにはなぜか本塁まで回ってきた走者2人の得点が加算されている。スーパースターズの選手たちが抗議するも、中村塁審からは「タッチの“行為”がなかった」の裁定。オーバーした相手がどんなに離れていても、アウトを取るには、走者に向かってタッチする行為が必要なのだった。
※33・『公認野球規則』(ベースボール・マガジン社)より
■ライター・プロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。幅広い書籍、雑誌、webなどで活躍。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」(http://bbc-lab.seesaa.net/)好評配信中。