「打〜て井口! た・の・む・ぞ・井口!」
熱狂的で知られる千葉ロッテマリーンズのファンが大合唱する、井口資仁の応援歌の一節だ。2005年以来のリーグ制覇を願って熱心に応援するファンにとって、チームのなかで最も頼りになる選手がこの男。まさに「頼むぞ井口!」なのだ。
思えば今から16年前の1997年、かつてのダイエーホークスにドラフト1位で入団した井口。あっという間にレギュラーに定着して小久保裕紀(元ソフトバンクほか)や城島健司(元阪神ほか)らと大暴れ。走攻守全てにおいて、ロッテにしてみれば本当に厄介な選手だった。
その後は大リーグ移籍を経てメジャー4球団を渡り歩き、今年はロッテで5年目のシーズンを迎える大ベテラン選手となった。そのプロ野球遍歴はざっと、MLB歴4年とNPB歴12年。日米両国をまたにかけて活躍し、今まで十分な実績を残してきた38歳の井口が、なぜ「いま見ないと絶対に後悔する!」選手なのか。
日本人離れした彫りの深い顔立ち、広い肩幅と丸太のような腕っ節、男らしい浅黒い肌…。巷では熟女ブームなるモノが流行っているそうだが、“熟男ブーム”など聞いたことはない。が、しかし…。
その理由は井口の今シーズンのバッティングにある。長い現役生活を経て培われた井口資仁の「打撃道」がついに円熟期に入り、今シーズンはその集大成ともいえるような結果を残しているからだ。
5月にはリーグトップの20打点、9本塁打、59塁打をマークして月間MVPを獲得。さらに7月には日米通算2000安打を達成し、シーズン終盤戦を戦う現在も3割前後の高打率をキープ。開幕から優勝争いを続けるチームをバットで牽引する井口の打席姿には“凄み”を感じるはずだ。
ガッシリとした厚みのある上半身と、バッターボックスに根を下ろしているかのようなドッシリとした下半身。例えるならば、樹齢数百年を経て今なお立ち続ける「巨木」の様なシルエットで相手投手と対峙する井口。
ボールをできるだけ懐に引きつけ、バットを引いたトップの位置と、投手寄りにステップする左足を結ぶ対角線で描かれる美しい「割れ」。いわゆる「体幹」を軸にして回転し、そこから生み出されるパワースイング一閃、バットをボールに叩きつけるようなパンチショットから放たれる打球は、QVCマリンフィールド名物の強風をものともせず、右へ左へと力強くグングン伸びていく…。
試行錯誤を重ねて無駄な動きをそぎ落とした究極の打撃フォームは、前述した樹齢数百年の巨木を彷彿とさせる、長年の経験で積み重ねた技術が集結した、もはや「匠の技」といえるだろう。