「勝負に勝って試合に負けた」
サヨナラ劇で試合が決した瞬間、この甚句以外に形容できる言葉が見つからなかった。花巻東(岩手)との3回戦で、9回までノーヒットノーランを演じた彦根東(滋賀)の増居翔太のことだ。
増居は東北の強豪を向こうに回して9回までに14奪三振。捕手の高内希が「打たれる気がしなかった」と言う一世一代の投球を披露した。それだけに勝ちたかっただろうが、味方打線にあと1本が出ず、延長10回に1点を失いサヨナラ負け。センバツでは2014年のダルビッシ有(当時東北[宮城]、現カブス)以来となる、大記録を逃した。
奪三振数や安打数を競う種目なら勝っていたのに……という気さえしてしまうほどの見事な投球だった。また、勝ち残っていた公立校という点でも、まだまだ台風の目として戦ってほしかった。この借りを返すため、夏に再び聖地にやってきてほしいと思ったのは筆者だけではないだろう。
王者・大阪桐蔭(大阪)が絶好調だ。2回戦で伊万里(佐賀)を14対2で一蹴すると、3回戦では明秀学園日立(茨城)を5対1で撃破。明秀学園日立戦ではエースの柿木蓮を温存し、余力を残して勝ち上がった。
しかし、エースを出さないとはいっても、明秀学園日立戦で登板したのは根尾昂。二刀流として騒がれる根尾は投手としても一流。他校なら文句なしでエースを務める実力の持ち主だ。こんな投手が控えているのは、対戦校にとってはたまったものではないはず。
大阪桐蔭が最後まで西の横綱にふさわしい戦いを続けていくのか。それとも足元を掬うチームが現れるのか。気になるところだ。
(※編集部注 4月4日、大阪桐蔭は決勝で智辯和歌山に勝利。2年連続のセンバツ優勝を決めた)
西の横綱・大阪桐蔭に負けない勢いで勝ち上がったのが、関東が誇る優勝候補の一角・東海大相模(神奈川)。初戦となった2回戦で1回戦を突破してきた聖光学院(福島)を12対3で返り討ちにすると、3回戦では静岡(静岡)に8対1で勝利。序盤から強豪を相手に危なげない戦いを繰り広げ、2015年夏以来の優勝を目指して突き進んでいる。
ちなみに前回優勝した時のエース・小笠原慎之介(中日)は、今シーズンの開幕投手を務めるまでに成長。また、小笠原とともにWエースの一角を担った吉田凌(オリックス)も今シーズンの躍進が期待されている。
東海大相模のナインは先輩に負けず、春夏ともに今年の甲子園を「タテジマ」のプライドで染め上げたいところだ。
(※編集部注 東海大相模は4月3日の準決勝で智辯和歌山に敗退)
チームの数、そして選手の数だけドラマがある。甲子園を舞台に、日々様々な名場面が生まれている。試合はもちろん試合後のインタビューなどを通して、それらを楽しむのも高校野球の醍醐味だろう。
100回大会を迎える夏の甲子園まで胸に迫るドラマを伝えていきたい。
文=森田真悟(もりた・しんご)