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第9回 どうなる五輪採用競技。レスリングか、野球か、それが問題だ!

 「レスリング・五輪除外問題」が物議を醸している。
 レスリング界の悲痛な声、日本だけでなく世界中からも怒りと憤りの声がわき上がっているが、同時にこんな声も聞こえてくる。
「野球の復活を応援していたけど、レスリングが可哀想だから……」
 この件でとばっちりを受けたのが、五輪復活を目指していた野球(と女子ソフトボール)ではないだろうか。2020年五輪では今回中核競技に選定された25競技に、16年リオデジャネイロ五輪から採用されるゴルフ、7人制ラグビーに加え、残り1競技が選ばれる。その1枠はレスリングの他、復帰を目指す野球と女子ソフトボール、空手、武術、スカッシュ、ローラースポーツ、スポーツクライミング、水上スキーのウエークボードの8競技の中から選定されることになる。
 今回はこの「五輪競技除外問題」を、野球界からの視点でクローズアップしていきたい。


野球界特有の「アクションの遅さ」

 話は少々さかのぼる。昨年12月に行われたハワイでの名球会総会において五輪について議論が行われ、王貞治理事長がコメントを述べた。それは「具体的なプランは決まっていないが、今後検討していく」というものだった。
 この段階において「具体的なプランは決まっていない」? さすがに遅すぎやしないだろうか。レスリングの除外に関しては「ロビー活動の有無」が大きな争点になっている。だが、このコメントを見る限り、野球界のロビー活動に関しては疑問を持たざるをえない。
 もちろん、野球復活に行動を起こさなければならないのはプロ野球界だけではない。日本野球連盟や国際野球連盟(IBAF)とも連携しながら動くべき案件であり、そちらからのロビー活動はなされているはずだ。だが、国内の世論を喚起する上では、やはりプロ野球界の力は非常に大きい。それだけに、野球界特有の「アクションの遅さ」が致命傷にならないか、危惧せざるをえない。


松井秀喜を五輪復活の顔に?

 名球会がらみでは、昨年末の松井秀喜引退の報の中で、こんなコメントを発した人物がいた。
「名球会は20年の東京五輪招致や野球競技の復活に協力していこうと話し合ったばかり。(松井は)日米でこれだけの実績を残している選手。大きな枠組みの中で活動してほしい」
発言の主は、日本プロ野球名球会の山本浩二副理事長(=侍ジャパン監督)だ。

 レスリングの問題でも議論の的になったが、IOCは欧州の意見が通りやすい傾向がある。それは歴史的な背景(創始者がフランス人であり、本部がスイスにあり、現在の委員の多数も欧州の人間であること)からも明らかだ。その状況において、日米ではスーパースターでも、欧州での知名度に欠ける松井秀喜氏を神輿に担いだとして、効果があるかは推して知るべしだろう。

 これは極論だが、例えば、サッカー元日本代表の中田英寿氏や、自転車レースが盛んな欧州でも伝説の存在である中野浩一氏など、他競技だけれどもヨーロッパにおいて知名度も発言力もある人物を起用するなど、もっと思い切った視点の変化こそが求められる。
 かつてアメリカでサッカーW杯が開催された際、サッカー人気のなかった米国内の注目を高めるために広告キャラクターとして起用されたのが、バスケの神様・マイケルジョーダンだった。サッカーボールでダンクするビジュアルはインパクトもあった。そのくらいの思い切った施策が野球界にも求められているのだ。
 他競技、ということに抵抗があるならば、世界の北野武監督でもいいだろう。野球界とも親交が厚く、欧州に対しての訴求力も大きいと思うのだが……。


「五輪」と「WBC」と「IBAFプレミア12」

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。この存在もまた、「野球の五輪復活」という観点からは扱いが難しい。IOCは「五輪こそが世界最高峰の大会である」ことを求めているのだが、これとWBCは真っ向から対立してしまうからだ。サッカーにおいてすら、W杯という最高峰の大会があるため、五輪は「23歳以下というカテゴリーにおける世界最高峰」を唱うことで共存を果たしている。
 であるならば、野球でもそれぞれの大会の役割の違いが求められると思うのだが、一向にそのような声は聞こえてこない。また、2015年にはIBAF主催の世界大会「IBAFプレミア12」の開催も決定している。これに関してもWBC、五輪とどう違うのかが不透明だ。このような状況において五輪への復活を目論んだとしても、IOCは納得しないのではないだろうか。


ソフトボールとの共闘はどこまで進んでいるのか?

 レスリング問題が新たに提起した課題が、「女性の競技普及度」だ。レスリングはイスラム圏で盛んなスポーツ。しかし、その人気が高い地域で、宗教的な理由から女性の競技人口が増えないことがマイナスイメージとなり、今回の決定につながったという見方もある。
 翻って野球は、女子野球とではなく、女子ソフトボールとの共闘によって五輪復活を目指す道を選んでいる。だが、国際野球連盟と国際ソフトボール連盟が、両競技の復帰を合同で目指すことを発表したのは2011年4月の出来事だ。まもなく丸2年が経とうとしているが、その後、物事が進展した印象は受けない。もちろん、関係各所は奮闘しているのだろうが、その動きそのものが世間に見えてこなければ、IOCにも訴える力は弱いだろう。これは、資金力も影響力も大きい野球界から率先して動かなければ、進展しない議題であることを改めて認識すべきだ。


真に重要なことは、野球が面白いかどうか。

 以上、今回はかなり厳しい目線で「五輪における野球復活の問題点」をおさらいしてみた。
 だが、希望がないわけではない。
 五輪種目採用の判断基準には様々な側面があるが、その競技が世界でどれだけ人気が高く、広く普及されているかも大きなポイントだ。野球は、日米など一部地域だけの人気しかない、というのはよく言われる問題点。だが、レスリングの競技人口が100万人超、今回中核競技に残った近代五種の競技人口が約3万人なのに対して、世界の野球人口は3,500万人、野球リーグが存在する国は世界に77カ国もある(IBAFによる2012年時点のデータ)。つまり、競技普及度の面では決して遅れは取っていないのだ。だからこそ、「野球って面白い!」と世界中に思わせる魅力的なプレーができるかどうかが最も重要な課題であるとも言えるだろう。
 いよいよ始まるWBC、そしてプロ野球の「1球」の勝負の行方が、五輪復活へと続く道程にあると信じて、観る側も注目する必要があるのではないだろうか。




★文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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