プロ野球はオフに入り、話題といえば契約更改か移籍について。ところが競馬界は、今週末に大一番・有馬記念を控え、もっとも盛り上がる時期だ。
そんな競馬界から野球界への移籍が可能な男と言えば、第一人者・武豊を置いて他にいない。武豊の偉大さはあとで説明するとして、まずは野球選手としてもアドバンテージとなりそうな騎手のすごいところを2点挙げてみる。
1点目はメンタル面の強さだ。ビッグレースともなると競馬場には10万人を楽に上回る人々が詰め掛けるが、野球は最大級の甲子園球場でも5万人。たしかに甲子園の阪神ファンは熱狂的ではあるが、それでも金を賭けている観客の真剣度には及ばないだろう。
自分の騎乗馬に数百億円が投じられているという状況に、日常的にさらされているのが騎手だ。
そして2点目がバランス感覚だ。騎手は、馬の横にぶら下げられたアブミという馬具(電車のつり革のようなもの)を、足の親指の付け根でつかみ、前かがみの中腰という非常にキツい体勢で騎乗する。
そして最後の直線では、ムチを左右に持ち替えながら、70キロ近いスピード走る馬をブレずに追う。要求されるバランス感覚は、すべての競技の中でも、最上級と言っていいだろう。
そんな競馬の世界で、歴代騎手の中でも突出した成績を残しているのが武豊である。
このように騎手の世界では頂点を極めた武豊が、野球で持ち味を生かして活躍できるとすれば、大事な場面でのバント、いわゆる「ピンチバンター」ではないか。
不安定な馬上でムチを自在に操る器用さはバットコントロールに通じるものがあるし、シンプルに言えば、来た球をバットに当てて転がせばいいのがバントだ。大ホームランや鋭い打球を飛ばすためのパワーやテクニックは必要ない。
それに、そもそもバントというのは、技術もさることながら、メンタル面の影響が大。プロでもバント失敗の場面を見かけるが、そんな選手も練習では簡単に成功させているはず。つまり「決めて当たり前」とか「絶対に失敗できない」という状況が重圧となり、手元を狂わせてしまうのである。
メンタルの強さは、前述したように証明済み。試合の行方を左右するような重要な局面で、器用かつ強心臓な選手が控えていれば、なんと心強いことか。
なお、武豊は阪神ファンであることでも知られ、阪神戦で始球式の経験もある。オファーがあれば、タテジマに袖を通すこともやぶさかではない!?
文=藤山剣(ふじやま・けん)