野球選手は体が資本。常にいいプレーができるのは、それを支える体力があってこそ。その原動力となるのが食事だ。野球選手と食にまつわるエピソードを紹介していこう。
毎日、決められた食事を摂ることで有名だったのがイチロー。第一次マリナーズ時代は、朝カレーが定番だった。この話が広まると、朝からカレーを食べる野球少年やサラリーマンが続出、カレー関連の売上が伸びたとまで言われた。
もう、ずいぶん前に朝カレーはやめているとのことだが、毎朝の食事が話題になっただけで経済を動かすほどのブームになるあたりは、さすがイチローだ。
ストイックな食生活を送っていることでも知られるのがダルビッシュ有(カブス)。あるテレビ番組の取材で「味がなくても必要と思えば食べるし、美味しくても体によくないものは食べない」と明言していたように、食事の基準は、野球選手として必要かどうか。
SNSでも、いわゆるインスタ映えするような食事とは正反対の、シンプルなメニューをたびたびアップしている。本当は甘いものが大好きというダルビッシュだが、少なくとも現役の間は、それを心ゆくまで味わうこともないのだろう。
若手選手の多くは、球団が運営する選手寮で生活する。そこでは、住居とともに食事も提供されるが、そのスタイルは球団ごとに特色がある。
DeNAの寮には、カレーとご飯が常備されている。練習や遠征などで食事の時間が一定でない場合や、寮にあるトレーニング施設で夜間の自主練習を終えてからでも、空腹を満たすことができるようにとの配慮だ。卵やチーズなどのトッピングも用意されており、食堂のスタッフが不在でも、選手が思い思いの味にアレンジして楽しめるようになっている。
また、ヤクルトの選手寮はビュッフェ形式で食事が提供されているが、これは「プロだから食事の内容も自分で考える力を身につけてほしい」という方針から。もちろん「ヤクルト」は飲み放題。牛乳が苦手な選手もヤクルトの乳製品で必要な栄養を補っているのだ。
高校野球の食の伝統として、おなじみなのが帝京の「3合飯」。その名の通り、3合の白米を食べるというものだが、これが1日ではなく1回の量。しかも、食事中の水分摂取は禁止で、タッパーに詰められたご飯を食べ終えて初めてそれにお茶を入れてもらえるという、過酷な時代もあった。中村晃(ソフトバンク)、山崎康晃(DeNA)ら、いまではプロで活躍する帝京出身選手たちも、当時は苦労したという。
中村剛也(西武)、中田翔(日本ハム)など、いまやOBたちがプロ野球界で一大派閥をなす大阪桐蔭も、朝から3杯のどんぶり飯が義務づけられ、おかずを残すことも許されなかったそうだ。成長期でもあるこの時期、しっかりと食べることで過酷な練習にも耐えられる体力がつき、甲子園の常連校となり得たのだろう。
ちなみに、大阪桐蔭の西谷浩一監督は、甲子園のベンチでもよく目立つ恰幅のいい体格でおなじみだが、これは、こよなく愛し、常に近くに置いているベビースターラーメンのおかげ(?)だという。毎年、オフに藤浪晋太郎(阪神)が、数百袋もの大量のベビースターを抱えて西谷監督を訪問するのが定番となっている。
帝京や大阪桐蔭だけでなく多くの強豪校で、たくさんお米を食べて、体を大きくして、パワーアップを図る「食トレ」は行われている。たしかに、しっかり食べて、まずはハードな練習をこなせる体を作らないことには、全国で勝負できないのも事実。
ただ、食事にも新たな科学的理論が浸透しつつある現代では、食事療法士や栄養士のアドバイスに基づいた「食育」を考慮し、また「お菓子でもカップラーメンでもいいからなんでも食べて、とにかく体重を増やせ」という誤って広まってしまったアンチテーゼとして、量だけでなく質を追求するケースも見られる。野球選手の食育の新たなあり方が模索される時代になったと言えるだろう。
文=藤山剣(ふじやま・けん)