1995年の野茂英雄以来、日本人選手が21年連続でMLBデビューを果たしていることをご存じだろうか。2016年も、その数字はよほどのことがない限り22まで伸びることが確実だ。
22年目の2016年にMLBデビューを果たすのは広島からドジャースへ移籍し、念願のメジャー挑戦の夢をかなえた前田健太。そのユニークな契約に、アメリカのファンやメディアからも賛否両論が飛んでいる。
まずはセイバーメトリクス(統計学を用いた最先端の野球分析)のシンクタンク『Baseball Prospectus』。ライターのブライアン・グロスニック氏が、2004年に日本を旅行した際に右も左もわからない思いをしたことを引き合いにし、今ドジャースが感じているのもそれに近いだろう、と書いている。
また、ドジャースのここ2年間の動きを振り返り、トップクラスのFA投手に大金を払うのではなく、もう少し安めで故障のリスクはあるが、健康なら堅実な仕事をしてくれる3・4番手のコレクションの一人だ、という見解も述べている。
実際、ドジャースは昨オフにブレット・アンダーソンやブランドン・マッカーシー、今オフはスコット・カズミアーを、前田との契約発表の数日前に獲得した。
また、もう一つのセイバーメトリクス系シンクタンクである『FanGraphs』では、その契約内容により詳しく踏み込んでいる。
まずは前田が契約の全期間中、健康に過ごした場合。このケースでは、前田は出来高を含めて1億6200万ドル(約124億5000万円)を受け取ることになるが、もしそうなればこの契約はドジャースにとって大バーゲンになるだろう、という見解を示している。
また、前田が一切出来高をもらえなかった場合、ドジャースはポスティングの譲渡金を含めて4500万ドル(約52億8500万円)を払うことになるが、それでも平均的な3・4番手として4年間、5番手としては7年間活躍すれば元をとれる金額ではある。どうやら前田は相当足元を見られてしまったようだ。
これに関しては、ファンも「なぜ前田はこの金額を認めたのだろうか」と疑問に思っているようだ。
ただ、ファンにとっての前田の価値はそれ以外のところにある。
アメリカ人は野球ファンに限らずとも駄洒落が大好きなのだが、マエケンは彼らにとって格好のターゲット。というのもKenta(健太)はcan’tに、Maeda(前田)は、makeの過去形であるmadeにそれぞれ発音が似ているからだ。
例えば「I Kenta stop making Maeda puns. I don’t know how many I’ve Maeda (前田の名前を使った駄洒落をいうのがやめられない。もう何回言ったかわからなくなっちゃったよ) 」などというジョークが、まだキャンプインすらしていないにも関わらず、すでに飛び交い始めているのだ。
これに関しては、「前田の契約には駄洒落1個ごとに50ドルの出来高をもらえる条項が盛り込まれているのではないのか」という憶測も飛んでいるほど。
前田のドジャース入りを一番喜んでいるのは、実は陽気なファンかもしれない。
文=山崎和音(やまざき・かずと)
日本プロ野球はもちろん、メジャーリーグや各国の野球の試合を毎日観戦。さらにシーズン中は、高校野球の地方大会などにも足を運ぶ。複数の米ウェブサイトにも寄稿しているほか、海外の野球ファンとの交流も積極的に行っている。