投げて、打って、走って、守る!
テレビカメラは様々な角度から、プレイの瞬間、瞬間を捉えて、迫力ある映像を私たちに届けてくれる。
ただし視聴者はあくまでも受身であり、「ココが見たい」と思っても、その願いは叶わない。
球場に足を運び、テレビカメラが捉えない部分を見ることで、野球の面白さや奥深さを感じとることができるのだ。
元阪神タイガースの金本知憲と言えば、連続フルイニング出場の世界記録保持者だ。
毎試合後、ベンチ裏で納得がいくまで素振りを終えなかったのは有名な話だ。しかし、外野守備の際には一球ごとに、両足のかかとを浮かせて構えていたことを知る人は少ない。
私の知る限り、金本はワンサイドゲームであってもこの体勢をかたくなに守っていた記憶がある。もちろん、これが野球の基本であり、当然と言われれば当然だ。広陵高時代、いや中学野球のころから叩き込まれたのであろう。一切手抜きをしないこの積み重ねが、世界記録につながったのではないだろうか。
夏の甲子園でプロ球団のスカウトを唸らせた、関東一高のオコエ瑠偉の動きも注目に値する。甲子園球場で観戦した際には、オコエはセンターの位置から、捕手のミットを見て打球方向を予測し、投球の瞬間に、球種とバットのヘッドの出方などから、左右どちらかにスタートを切っていた。
世界大会決勝戦の初回、絶妙なスタートを切ることで右中間の打球を好捕、米国の先取点を阻んだのは記憶に新しい。
野球の指南書には、かかとを浮かせて構えると、逆に動きを悪くすると書かれているものもある。またオコエの動きは、プロの打者であればコースを読まれてしまい、逆効果になる場合もある。
正解は1つではない。
プロの外野手に注目すると、その正解を導くための創意工夫が見て取れる。半身(はんみ)で構えて、投球の瞬間一歩踏み出す選手もいれば、重心だけ移動する選手もいる。なかにはまったく動かない選手だっている。
投手と打者は右か左か?捕手のミットは内か外か?ランナーは?風向きは?様々な要因で外野手は瞬時に対応していく。
テレビカメラが、外野手のかかとを映すことはない。金本やオコエの守備の構えは、球場で野球を観ていればこそわかることなのだ。
文=まろ麻呂